【検証・コミュニティー再生】南相馬 人をつなぐ地道な見守り

 
同僚と南町団地の世帯を巡回する千尋さん(左)。入居者との会話を通じて現在の状況などを把握し、必要な支援につなげる活動を続けている=南相馬市原町区

 「あら、元気だった。事務所の近くに来たらまわってよ」。南相馬市社会福祉協議会(社協)の職員が、朝のラジオ体操に集まってきた高齢者らに声を掛けた。会場は同市原町区にある復興公営住宅の「南町団地」。団地には、東京電力福島第1原発事故により同市小高区や浪江町から避難してきた住民が暮らしている。ラジオ体操は入居者同士の交流の場として行われていた。

細かい気付き不可欠 体を動かした参加者が部屋に戻っていく中、腕を組んで歩く2人連れがいた。「あれ、あの2人夫婦だったんだ」。社協職員の千尋淳子(51)はつぶやいた。避難元の浪江町社協と連携しているものの、団地の入居者全ての情報を把握するのは難しい。入退居もあるため、職員が巡回などで得た細かい気付きから、各世帯の状況を確認することが欠かせないという。

 巡回は2人一組で行われる。高齢者の1人暮らしは週1回、家族が同居している場合には月1回など訪問の頻度を決めている。

 千尋が一室のチャイムを鳴らすと、入居者が顔を出した。「今度行ってみたデイサービスはどうですか」「食事がおいしいの」「じゃあ良かったね」などと会話が続く。支援情報などをまとめたチラシを手渡した後、別の部屋へと向かった。

 来訪を告げていたはずだが、反応がない。千尋と同僚は「新聞はまだ新聞受けにあるね」「車はあるかな」と周囲を確認する。間もなく「ごめんね。野菜が届いたからお裾分けしてたのよ」と入居者が戻ってきた。「心配したよ。体調が悪いのかなと思って」と笑顔で語り掛ける。地道な見守りが、避難先で孤立しがちな一人一人をつないでいる。

 団地をついのすみかとする人もいれば、仮住まいと考える人など立場はさまざまだ。避難元が南相馬市と浪江町に分かれている事情も絡み、団地で結び付きの強い自治組織ができる状況にはない。同市社協生活支援相談室長の黒木洋子(63)は「高齢化が進み認知症の人もいる。(団地として)地域で自立しろと言われても、それはきれい事」と指摘する。

 黒木や千尋は9人のチームをつくり、南町団地を含め市内の避難者約3千世帯を支援している。黒木はその経験から「避難してきた人を『南相馬に住む人』として、地域全体で支える仕組みが必要。孤独死といえば公営住宅と思われがちだが、(一般住宅など)公営住宅以外で起きる事例のほうが多い。地域全体で見守りの充実を進めることは、南相馬市民にとっても役に立つはず」と訴える。

 地域との接点づくりに向け、福祉関係の会合で協力を呼び掛けたり、近くの公園の合同清掃を検討したりと一歩ずつ進めたい考えだ。正直、隙間風を感じることもあるという。それでも黒木は「受け持つ限り、責任を持ってやる」と絆づくりへの決意を口にした。(文中敬称略)

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 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で、本県の地域社会は揺れ動いた。震災から10年、各地でコミュニティーの再生や再構築に取り組む動きを追った。

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 地域社会再構築へ歩む

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から10年がたち、古里への帰還や避難先への定住、公営住宅への入居など、さまざまな住民の動きがみられた。県民一人一人が生活再建を果たし、復興を実感できるようにするためにはどのような課題があるのか。データから探った。

 高齢化、孤立化の対応急務 地元と避難先、連携不可欠

 地震や津波、原発事故で避難した人への支援の主力となるのが、県内各地の社会福祉協議会(社協)に配置されている「生活支援相談員」だ。県が国の交付金を活用し、県社協と連携する形で配置を決めており、5月末現在、県内21社協で127人が活動している。

 相談員は、巡回活動などを通じてさまざまな支援を必要とする世帯を把握する。県社協が、その世帯を住環境別、年代別に分析し、2016(平成28)年と20年のデータを比較したところ、変化が生じていることが分かった。

 住環境別のグラフで「復興公営住宅」とあるのは原発事故による避難者が入居する住宅で、主に避難先に建設されている。「災害公営住宅」は地震・津波で住宅を失った人が入居する住宅。「住宅再建」は、避難先で新たな住宅を自力で建設した人を指す。

 16年と比べ20年は復興公営住宅に住む人の割合が約4倍の17.0%になった。住宅を再建した人もほぼ倍増の35.4%となり、復興公営住宅と合わせると、支援を必要とする人のうち、震災前に住んでいた場所を離れ、避難先にいる人の割合は5割を超える。

 支援を必要とする人を年代別に見ると、70代は12.3%から5.4ポイント増の17.7%となり、ほかの年代より増加が目立っている。県社協は「住宅再建や帰還などの過程を通じて(高齢世代と子ども世代の)『世帯分離』が進んだためではないか」と分析している。

 県社協の調査からは、震災と原発事故によって以前住んでいた場所から離れて生活する人をどのように支援していくかが課題となっているのがみえてくる。支援を必要とする人の高齢化、世帯分離などによる孤立化への対応も急務になっている。

 県社協避難者生活支援・相談センターの担当者は「避難元の社協だけで解決することは困難だ。避難先の社協などの関係者と連携して、複数の視点から見守り、必要な支援を届けていくような仕組みづくりが欠かせない。そのことは、福島県の新しい社会づくりのモデルケースになるはずだ」と指摘する。

 震災と原発事故で変質した地域社会をどのようにしてよりよい形に再構築していくか。県が震災10年を機に掲げた新スローガン「ひとつ、ひとつ、実現するふくしま」の真価が問われる。

 生活支援相談員、安定的な確保を

 支援の担い手をどのように確保していくかも課題になっている。県内各社協で被災者支援に取り組んでいる「生活支援相談員」は、国の被災者支援総合交付金を活用して配置している。ただ、年度ごとに国に必要な相談員の数を認めてもらう仕組みになっている。

 現場の社協からは「息の長い支援が必要であることは明らかな状況なのに(相談員配置が)『来年はどうなるのか』という状況が毎年続いている」と、制度が実態に合っていないことを指摘する声が上がっている。県社協も「必要な人員は確保できているが、複数年雇用できる財源が確保されれば先の見通しも立つし、人材の確保にも役立つ」と、運用見直しを訴える。

 県も、交付金などを基金として積み立てることで複数年雇用ができるような仕組みづくりを要望している。しかし、交付金を所管する厚生労働省は「予算の枠組みとして単年度ごとになっている。しかし、現場での複数年の雇用を制限するものではない」との見解を示す。

 第2期復興・創生期間(2021~25年度)の復興を定めた国の基本方針には、「被災者が地域社会から孤立することや孤独に悩むことを防ぎ、安全・安心な生活を再建することができるよう、引き続ききめ細かな支援が必要である」と明記してある。

 異なる住民の立場「ついのすみか」「帰還の通過点」

 県や県社協、現場の生活支援相談員らが、重点的な支援が必要だと指摘するのが、県内各地に建設された被災者向けの公営住宅だ。さまざまな地域から集まった人が入居していることから、自治体や地域ごとに入居していた仮設住宅と比べ、実態把握が難しいことなどが原因。過去には「孤独死」の問題も取りざたされた公営住宅の現状はどのようになっているのか。

 公営住宅3種類

 県内に建設された公営住宅は大きく分けて3種類あり、「災害公営住宅」「復興公営住宅」のほか、避難先から古里に戻ってくる人のために造られた「帰還者向けの災害公営住宅」だ。約8000戸以上が建設済み、または建設予定となっている。

 住宅は、アパートのような共同住宅や戸建てなど、地域の実情に合わせて設計された。帰還者向けの災害公営住宅の中には、被災地に新たに移住する人を対象にした「再生賃貸住宅」という区分もある。福島市では一度避難したものの、戻ってきた子育て世帯向けの住宅も整備された。復興公営住宅は県、災害公営住宅は市町村が管理する。

 自治会活動に差

 既存の住宅地や団地などでは、町内会や自治会などの住民団体が組織されるが、公営住宅ではどうか。

 県生活拠点課によると、復興公営住宅70団地のうち、自治会を設けているのは61団地(3月末現在)。活動内容や結びつきの強弱は団地によって差があり、避難先の市町村の町内会に加入しているのは13団地にとどまるという。町内会への加入が少ない背景には「復興公営住宅側と地元側の双方の事情が関係している」(県生活拠点課)としている。

 入居者は、復興公営住宅を避難生活の終着点の「ついのすみか」と考える人もいれば、住宅再建や帰還するまでの「通過点」と考える人などさまざまだ。高齢化も進み、自治会を強化したり、避難先とのつながりをつくったりする動きがまとまりにくい。複数の自治体から避難している場合には、さらに複雑になる。新型コロナウイルスの感染拡大も、自治活動を維持する上での課題になっている。

 地元側からみると、復興公営住宅は「震災後にいきなりできた」との思いを隠せない。入居者がどのような人なのか、いつまで住むのかなどが分からず、自治会への入居を呼び掛けることがためらわれるという。

 県は、復興公営住宅の自治会づくりなどを支援する「コミュニティ交流員」を県内に27人(4月末現在)配置しており、今後も自治会や地元との結びつきの強化を進めていく方針だ。