【エールのB面】村野鉄男役・中村蒼さん 今こそ『支え合い』が必要

 
喫茶・バンブーの展示を訪れた中村さんと井上さん=10月30日、福島市

 終盤に入り盛り上がりを見せる朝ドラ「エール」。10月末に福島市を訪れた出演者の中村蒼さんに、本県の印象や役柄の村野鉄男、モデルの作詞家・野村俊夫への思いなどを聞いた。

 古関裕而記念館を初訪問した感想は。
 「古関さんの偉大さを知っていたつもりだが、改めてすごさを感じました。エールという作品に携われたことがうれしい。古関さんを身近に感じることができました。福島の皆さんが『エール』を楽しみにしていると聞いていましたが、実際に来て盛り上がりを実感できました」

 人々の声反映

 福島の印象は。
 「すごくいい街。モモが好きなので、東京では福島のモモを選んで買っていました。鉄男は最後まで福島弁ですが、濁点や鼻濁音の使い方が難しいですね。語尾の『だべ』や『だな』が好きで、優しさや温かさを感じています。福島で生の福島弁を聞けたのがすごくうれしい。鉄男を1年以上演じ、一方的に福島を『第二の古里』と思っています」

 鉄男のモデル野村俊夫についてはどんなイメージか。
 「最初は野村さんを知りませんでした。功績を知り、歌詞も美しい表現をされるのでやりがいのある役だと思いました。実際の野村さんはガキ大将の気質がある一方、繊細な面もあったとのこと。『エール』をきっかけに、野村さんの素晴らしさが伝わればうれしいですね。劇中の鉄男は男らしい人物ですが、繊細さや郷土愛など多面性も表現しました」

 野村は福島民友新聞社の元記者。演じる上で意識したことは。
 「野村さんは新聞記者の経験を基に、人々の声を拾うことで、多くの人が共感できる歌詞を書いたのでしょう。劇中の鉄男は大人になっておでん屋になりますが、記者として相手の懐に入るのが上手だったからだろうと想像を膨らませて演じました。また、戦争編では、記者の中立的な立場で戦争を見て、危うさや真実を伝えています。鉄男のように自分の意見を言い、ここぞという時に頼れる人に憧れています。今後、鉄男の空白の時間が描かれるので注目してほしいです」

 「顔で弾け」と

 間もなくドラマはクライマックスを迎える。
 「未来に希望を持ってみんなが進んでいくので、見ていて明るくなるのではないでしょうか。ただ笑ったり話しているシーンも、戦争を経験しているので重さが違う。かけがえのないものに見えてくるんです。演じた後、モニターで確認している時、『日常が戻ってきて良かった』と思いました。ここにも注目してほしいですね」

 「暁に祈る」の作詞に苦戦する中、藤堂先生(森山直太朗さん)と話すシーンが印象的とのことだが。
 「藤堂先生から背中を押してもらって『暁に祈る』の作詞に向き合い、思い入れのある演技になりました。神社での撮影後、森山さんと参拝して『エール』が無事に撮影でき、成功するように祈ったのも思い出です。森山さんには初挑戦のギター演奏の練習中に『(技術よりも)顔で弾け』と助言を受けました。『自信を持って演奏することが大切』と気付かされました」

 集合が楽しみ

 裕一役の窪田正孝さんと久志役の山崎育三郎さんへの思いは。
 「僕の思うリーダー像は、この人のために頑張りたいと周りの人に思わせる人。窪田さんはまさにこういう方で、人の上に立って仕切るよりは、みんなの真ん中に立って温かく背中を押す。窪田さんの朝ドラに出られて良かったと思います。山崎さんは久志を嫌みなく演じ、愛される存在です。山崎さんの人柄あってこそ。それに心に響く歌声で、軽やかな芝居で存在感を残す。こんなにたくさんの才能を持っている人はいないでしょうね」

 10日には窪田さん、山崎さんとともに「福島三羽ガラス」が福島市を訪れる。
 「三羽ガラスの中で僕は"子ガラス"(笑)。2人が来たらとんでもないことになる。僕でさえ喜んでくれているので、狂喜乱舞するのではないか。その光景がすでに見えます。福島に3人がそろう念願がかなうので楽しみにしています。一緒に盛り上がりましょう」

 撮影が終了した。「エール」を振り返ってどう思うか。
 「どの登場人物も順風満帆でなく、誰かに支えられながら前に進んでいる。エールは背中を押してあげる物語なんです。演じながら誰かを思う気持ちや人と人とのつながりの大切さを学びました。舞台となった福島の魅力も『人と人が支え合って力強く生きているところ』ではないでしょうか。現実世界でもコロナ禍で他人を思う大切さを多くの人が感じていることでしょう。日本中が支え合うことが必要なので、福島から『エール』を発信できたらいいですね」

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 なかむら・あおい 1991年、福岡県生まれ。2005年に「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で最年少の14歳でグランプリ。大河ドラマ「八重の桜」、映画「空飛ぶタイヤ」などに出演。29歳。

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 【エールのB面】藤丸役・井上希美さん 苦難経て痛み知る人

 古関裕而の初の大ヒット「船頭可愛いや」を歌った芸者風の歌手「音丸」がモデルの藤丸を演じる井上希美さんに役への思いなどを聞いた。

 「船頭可愛いや」を歌った感想は。
 「非常に難しかったというのが第一。戦前の歌手は今と違って広い音域を地声で歌っており、苦労しました。音丸は幼少から小唄を習っていたそうで小唄の節にも挑戦しました。視聴者から温かい反応をもらい良かったです。藤丸は下駄(げた)屋の娘の設定です。素人がレコーディングスタジオで朗々と歌うのはすごいことなので、度胸のある人だと考えました。私も自信を持って『今できることはこれが全て。恐れることなくやってみよう』と考えて演じました」

 久志を支える展開について。
 「藤丸は歌手として第一線で活躍したわけでなく、『一発屋』といわれてキャバレーで歌っています。きっと歌っていたくてキャバレーを選んだと想像しました。苦難を経て痛みを知る人となり、久志に冷たくされながらも半年にわたり支えました。劇中では描かれていないですが、久志が心を開いてくれる瞬間があり、久志を信じ続けたんだと想像しました。久志に献身的に尽くした藤丸はすごい女性ですが、表現は難しかったです。私自身も藤丸を尊敬していました」

 周囲から藤丸役の反響は。今後の注目ポイントは。
 「(鉄男の)屋台で語り合うシーンも反応がありました。藤丸は商人の娘なのでいろいろな人と仲良くなっていくのが素の部分なのだと思います。戦後発展の時代に入り、古関さんの音楽は日本が盛り上がっていく中で象徴となっていく。藤丸としては久志にもう一度歌ってほしいという思いがかなえられました。今後、『船頭可愛いや』を歌う部分も出てくるのでお楽しみに」

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 いのうえ・のぞみ 1992年、神戸市生まれ。劇団四季公演のミュージカル「ジーザス・クライスト=スーパースター エルサレム・バーション」「サウンド・オブ・ミュージック」などに出演し「美女と野獣 ミュージカル」ではヒロイン・ベルを演じた。テレビドラマ「やすらぎの刻~道」で連続ドラマ初出演。28歳。