【エールのB面】「福島三羽ガラス」集結 『出会い』...財産になった

 
ファン感謝祭の公開収録に訪れた(左から)中村蒼さん、窪田正孝さん、山崎育三郎さん=10日午後、福島市・こむこむ館

 23日から最終週に入り、いよいよ佳境を迎える朝ドラ「エール」。最終週を前に作曲家古関裕而がモデルの主人公・裕一役の窪田正孝さん、福島民友新聞社元記者の作詞家野村俊夫がモデルの鉄男役の中村蒼さん、歌手伊藤久男がモデルの久志役の山崎育三郎さんの「福島三羽ガラス」が撮影秘話や福島への思いなどを語った。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う中断を乗り越えた1年超の撮影を振り返ってどうか。

 窪田「まだ放送が続いているので撮影終了の実感がないです。ふみちゃん(二階堂ふみさん)とつくった夫婦像が『エール』の象徴となりました。(主人公の)僕は撮影現場で、多くの人たちを迎え入れて送り出す役目でした。いろいろな出会いが財産になり、今後の勉強になる材料をいただけました。コロナ禍の中で、『エール』に携われたことに感謝でいっぱいです」

 中村「撮影期間は本当に楽しかった。芝居や歌など多才な方々が現場にいて学ぶことが本当に多かった。回を追うごとにエールの世界に引き込まれました。自分が関わってない回を一視聴者として見ても『エール』は素晴らしいと感じています」

 山崎「最高の現場で今年はエール一色でした。コロナ禍の中で自身も救われる部分もあり、現場に行くのがいつも楽しみでした。街を歩くと『久志だ』って声を掛けてもらい、朝ドラの影響のすごさを実感しました。久志というコミカルなキャラクターを演じ、撮影中は『久志』なのか『山崎育三郎』なのか分からなくなるほど役に入り込んでいました」

 力強さ感じる

 「エール」では登場人物の福島弁に注目が集まった。

 窪田「最初は福島弁の指導者(須賀川市出身の相樂孝仁さん)につきっきりで教えてもらいました。途中から指導されなくなり、相樂さんから『もうできてますから、そのままいってください』と言われました。(福島弁で)『これが福島弁なんだなって感じでやっていたので、合ってんのか合ってないのか分かんないです』。劇中で福島の登場人物と話すときは自然と福島弁が出ました。気持ちが高ぶるときも福島弁になっていますね。実際に福島の人が話す福島弁を聞くと心地よいですね」

 中村「僕が最初に撮影に入ったときは川俣銀行編でした。驚いたのは、出演者が撮影以外でも福島弁を話していたことです。僕は人見知りなので話すことすら大変なのに、さらに福島弁で話さなければならない状況になり、どうしようかと悩みました。福島弁は温かくてかわいらしくて、話していて好きですね」

 山崎「劇中では一言も福島弁を話しませんが、福島を感じながら演じてきたので、聞けば温かい気持ちになります。安心できるような優しい響きが好きですね。福島が特別な場所になりました」

 好きな古関メロディーは。

 窪田「野球をやっていたので元々『栄冠は君に輝く』が好きでしたが、撮影を通して『高原列車は行く』が好きになりました。メロディーの響きが気持ちよくて元気になります」

 中村「僕は『長崎の鐘』です。悲しい感じからメロディーが変わって明るくなって希望に満ちていきます。戦後の力強く前に進んでいく気持ちが出ていますよね」

 山崎「(劇中でも)3人で作った『暁に祈る』です。戦時中の曲ではありますが、悲しみや切なさを表現するのが難しかったんです。古関さんの楽曲はいつも人の心に寄り添うフレーズやメロディーがあり、力強さの中にも繊細さを感じました」

 今後の福島とのつながりは。

 山崎「歌手でもあるので『栄冠―』など古関さんの歌を歌い続けたいです。僕は野球一家で育った野球少年で甲子園への思い入れは強い。今年は夏の甲子園が中止となり、球児の無念さを思い心苦しかったです。『栄冠―』を歌うシーンでは、直前の裕一(窪田さん)の芝居で心を動かされ、自身の甲子園への思いもあって、涙があふれるのをこらえながら歌いました」

 窪田「仕事が落ち着いてから福島を巡りたいです。古関さんのお墓がある信夫山も散策したいですね」

 中村「以前泊まった福島市の温泉旅館がすてきなので、また行ってみたいですね。モモが好物なのでモモ農家とつながりたいですし、スパリゾートハワイアンズを観光して経済の面でも福島に貢献したいですね」

 良いバランス 

 「福島三羽ガラス」への思いは。 

 窪田「3人とも違うキャラクターで良いバランスでした。ふみちゃんに『福島三羽ガラス』のシーンのほうが楽しそうと言われました。僕は男兄弟で育っているので男といるほうが楽しくなっちゃう。藤堂先生(森山直太朗さん)も加えて『エール男子会』として食事に行こうとしていたけど、コロナ禍で撮影現場以外で会えず実現していません。世の中が落ち着いてから必ず行きたいですね」

 中村「3人で作品を作れたことが大切な宝物です。窪田さんの現場での立ち居振る舞いなど芝居以外でも学ぶことが多かったです。育さん(山崎育三郎さん)は芝居と歌という二つの武器を持っていた。2人と芝居できたことで、自信をもって次の新たな場所に行けます」

 山崎「黙ってても3人でいられる関係性ですね。窪田君と蒼君は役柄と人柄は真逆。実際の窪田君は男らしく、蒼君はおとなしい。僕は久志のままですが(笑)。2人とはずっと一緒にいたいなと思える。この2人じゃなきゃ『福島三羽ガラス』の空気感は出せなかったのでは」

 窪田「もし『エール2』があれば僕が鉄男役をやりたい。そして『おめぇ何言ってんだ』って言いたいですよ(笑)」

 本当に転んだ

 アドリブに見えるシーンが多い。

 山崎「基本は監督がカットをかけるまで演じなくてはなりません」

 窪田「吉田(照幸)監督は本番を大事にしていて、わざとカットをかけないこともありました」

 山崎「久志はアドリブ風に見えるけど、台本には『ウインク』とか書いてある。ただし女子学生4人に向けたウインク4連発はアドリブです。久志としては4人にウインク1回は平等ではないと考えたのでしょう。『久志スイッチ』が入ると何でもできちゃう。例えば『喫茶バンブー』で御手洗ティーチャー(古川雄大さん)と初対面で『スター』『プリンス』と言い合ったのも台本にはありませんでしたね」

 出征する久志が壮行会でこけるシーンもアドリブか。

 山崎「実はNGシーンで本当に転んでしまった。台本には『かっこよく、タップダンスを踏み、ターンで登場』とあった。ですが、床が滑りやすく、靴下だったので転んでしまいました。でも『久志スイッチ』が入っていたので久志のまま元の場所に戻った。実はあの後もう1回撮影して成功しています。なので成功シーンが放送されると思っていて、オンエアを見たらNGシーンが使われていて驚きました。録画していたら見返してほしいです。周りのみんなは本当に笑っていますんで」

 中村「笑うのを耐えていたのですが、やっぱり我慢できずに笑ってしまった。撮影直前に育さんが何度も練習しているのを見ていただけに、余計おもしろかったですね(笑)」

 戦争編は壮絶な展開だった。

 窪田「さわやかなシーンを届けるのが朝ドラですが、人生には幸せや悲しみがあります。ここをうそ偽りなく描いたのです。藤堂先生が亡くなるシーンは、台本では『先生』と3回言うはずでしたが、カットがかからず、ずっと演技を続けました。朝ドラであそこまで描くのは監督の独断ではなく、たくさんの人の合意があって決まりました。戦争をきちんと描かなければ、裕一が挫折し、どん底からはい上がる姿が描けないという強い意志を感じました」

 山崎「久志を演じる上で藤堂先生は心の支えで特別な存在。亡くなるシーンは今見ても泣けてきます」

 最終週の見どころを。

 窪田「『エール』を通し福島や全国に元気を与えようと取り組んできましたが、多くの皆さんの声援を受け、一番僕たちが応援してもらっていました。演じてみて僕自身も感じたことですが、音楽には人の背中を押してくれる力があります。最終週では音(二階堂さん)との夫婦道の集大成となります。朝ドラ史上例をみないカタチでの終わり方になると思います。ぜひ、ご期待ください」