【エールのB面】識者の提言 福島への注目高まる!エール効果生かす

 
刑部芳則氏

 朝ドラ「エール」を契機に、モデルとなった作曲家古関裕而やロケ地となった福島への注目は高まった。このエール効果をいかに生かし、持続させていけるかが肝心だ。「エール」で風俗考証を務めた刑部芳則氏、古関裕而研究家の斎藤秀隆氏、福島市音楽文化総合アドバイザーの三浦尚之氏に、エール効果を生かしたまちづくりへの提言などを聞いた。

 「エール」風俗考証・刑部芳則氏 『朝ドラ活用』門戸広がる

 放送開始前、福島市出身の知人は古関裕而を知りませんでした。人気に火が付き、今では全国の人が古関を知るようになりました。それにしても「福島行進曲」「船頭可愛いや」など忘れ去られた歌が全国放送され、人気を集めるとは思いませんでした。うれしい限りで、本当に朝ドラ効果は大きいですね。

 ですが、ブームとは恐ろしいものです。「エールロス」という言葉も生まれましたが、番組終了とともに新しい朝ドラ「おちょやん」に興味が移った人もいるのが実情です。悲しいことですが、せめて福島市は「古関愛」を持続してほしいと切に願っています。

 では古関愛をどう持続させるか。一番は古関メロディーを聴いたり、歌ったりする機会を定期的につくること。これまでもあったかもしれませんが、「エール」を活用すれば門戸が広がって注目され続けます。また、全国ではまだまだ忘れ去られた古関メロディーがありますので、ぜひ掘り起こしを続けてほしいです。生涯作曲数は5000曲ともいわれるので、広域交流が生まれる可能性は十分にあります。

 福島市には古関裕而記念館がありますが、朝ドラに合わせて市中心部には「古関裕而まちなか青春館」が設置されて好評を集めました。まちなかに新設したのは、観光客向けの施設が必要だったからでしょう。今後も記念館とは違う内容の施設を中心部に設置すれば、観光客もさらに福島や古関を身近に感じ、楽しめるのではないでしょうか。

 古関メロディーにはすでに伝統となった楽曲が多いです。昭和歌謡愛好者の立場からいえば、オリジナルの楽曲を尊重してほしいと願っております。それが「古関愛」につながるのではないでしょうか。忘れ去られる運命にある昭和歌謡を引き継ぐ都市は、全国でも福島市以外にはありません。欲をいえば古関だけでなく、古関メロディーの歌手など同時代の音楽関係者も顕彰してほしいですね。

 古関裕而研究家・斎藤秀隆氏 学び伝える案内人育成

 「エール」を通して古関さんや福島が全国から注目を集めていますが、単なるブームで終わらせてはなりません。「エール」の灯火(ともしび)をともし続けることが大切です。

 それには音楽だけで捉えては不十分です。激動の昭和史と重なる古関さんの生涯を総合的に学ぶ「古関学」として理解を図ることが重要なのです。

 ありがたいことに、私は古関さんの研究家として認知され、「エール」でも「古関裕而研究」の肩書で協力しました。始まりは二十数年前に福島民友新聞の連載を執筆したことです。これが本になり、注目を集め、今に至るのです。提言の前に古関音楽の魅力を大まかに説明します。

 1点目はクラシックがバックボーンにあり、多くの曲が気品にあふれて格調高い。2点目は戦前、戦中、戦後を通じ、あらゆる世代に応援歌を作った。3点目は行進曲やスポーツ音楽が最大の得意分野だった。最後の4点目はヒューマニズムにあふれていること。古関さんは弱い者の味方ですが、決して強い人間ではありません。むしろ音楽以外は劣等感の塊ともいえます。

 古関音楽は「情」ではなく「知性」に訴える曲。歌謡曲だけれども歌謡曲ではない旋律が飽きをこさせないのです。例えば「船頭可愛いや」は戦前に発表されましたが、今聴いても良い曲です。それに「紺碧の空」「栄冠は君に輝く」など名曲といわれる楽曲は歌い継がれるものが多く、数百年先も残るでしょう。

 ただし、古関さんの古里・福島に「エール」の灯火を残すとなると課題があります。古関さんについて学ぼうとする人々がまだまだ少ないように思えます。花見山の案内人のように、古関さんの功績を語り継ぎ紹介していく集団をつくる仕組みができないでしょうか。

 今こそ地域ぐるみの積極的な取り組みが必要です。行政だけでなく、文化団体やマスコミなども協力し地域を挙げたキャンペーンを展開してみてはどうでしょう。

 福島市音楽文化総合アドバイザー・三浦尚之氏 残す努力が欠かせない

 朝ドラ化に向けて音楽活動で築いた人脈を生かし、市とNHKの橋渡し役となって要請活動を続けてきました。念願かなって実現した「エール」は無事に放送を終えましたが、これを機に福島市には、より積極的な取り組みをしてほしいことがあります。

 まずは「古関裕而」を名称に付けた音楽コンクールの開催を進めて、盛り上がりを継続することです。古関の功績を後世に伝えるため内容にも工夫が必要でしょう。全国に発信するための権威付けも重要です。主催者はどこか、審査員は誰か。なれ合いは一切なし。古関さんを冠にする行事は福島市にしかできませんので、ぜひ実現させたいです。相乗効果で観光面にも好影響を与えるはずです。

 次に福島市出身者などの本県ゆかりの音楽家でつくる楽団の創設です。福島市には「ふくしん夢の音楽堂」(市音楽堂)という素晴らしい音響の施設があります。これを生かして常設楽団にするのです。全国的にコンサートホールが常設楽団を創設することは珍しいので、音楽を生かしたまちづくりの観点から特色ある取り組みになるでしょう。きっと音楽を志す子どもたちの夢にもなります。

 さらに古関さんの功績を知ってもらう学校教育も大事です。入り口は古関メロディーを歌って楽しむことでしょうか。子どもたちが音楽に親しむには体感が必要です。例えば校歌を編曲して踊れるようにしたり、学校行事で古関メロディーを活用したりするのはどうでしょう。将来を見据えて子どもたちへの教育に力を入れることが「古関裕而のまち福島市」への近道です。

 文化や芸術は残す努力をしなければいけません。長年の積み重ねがあって文化や芸術は発展していく。これには今を生きるわれわれが努力することが欠かせません。市民が古関さんを理解することで福島は偉大な作曲家を生んだと胸を張れるのです。ぜひ福島市には100年の大計に立って取り組んでほしいですね。