【映画・ロケーション】いわき市 隠れた名作!癖のある役者ら熱演

 
作品の冒頭シーンなどが撮影された夏井川河口近くの新舞子浜の荒波。ロケ当時も台風10号の影響で海が荒れるのを待ち、最後の最後にロケが行われた

 映画「ロケーション」(森崎東監督、松竹)は1984(昭和59)年9月に公開された。映画のロケ隊が苦闘するロードムービー。詳細に言えば、ピンク映画づくりの現場の話だ。金も人も時間もない中「映画を完成せねば」と、時に命がけでもがくスタッフや俳優たちの姿が、悲哀を交えコミカルに描かれる。そのシーンの多くが同年夏、いわき市で撮影された。

 主演は西田敏行(郡山市出身)。演じるのは「福島出身」のカメラマンべーやん。ヒロインは当時売り出し中の美保純と実力派の大楠道代。そして映画初出演の竹中直人、佐藤B作(福島市出身)など。森崎監督の要望で集められた癖のある役者、タレントたちが、情熱的で少し不思議なドラマを熱演した。

 ロケ隊が来店

 そんな映画の魅力を改めて味わおうと、いわき市を巡った。

 同市周辺は、物語の中盤からクライマックスの舞台である。べーやんの妻の女優(大楠)が倒れ、急きょ代打に引っ張り込まれた旅館の女中、笑子(えみこ)(美保)が、都内でのロケ中突然「お盆なので家族の墓参りに帰郷する」と、訛(なまり)言葉で言い出す。だが時間がない。ならば墓参りがてら撮影しようと、ロケ隊のオンボロワゴンが向かったのが、いわき市だった。

 このロケを覚えている人を探し、ほうぼう問い合わせたのだが、空振り続き。映画の存在さえ知らない気配に焦り始めた時、ようやく味方が現れた。

 同市四倉町の緑川健さん(52)は、地元ゆかりの映画の自主上映会を続ける、いわきノスタルジックシアターの代表。筋金入りの映画ファンだ。当然、本作は十二分に知っていた。

 「隠れた名作です」。同じ西田敏行主演で、地元ロケが行われた松竹映画「釣りバカ日誌8」(1996年)を知るいわき市民が「ロケーション」はほとんど知らない―と嘆く緑川さんの言葉が熱を帯びる。

 「話は、深みがあって面白い。特に後半、美保純と母親役(二役)の大楠道代の演技が鬼気迫っていて、見る者に感情を投げ掛けてくる。ほかの出演者も、その後活躍している人ばかり。当時の日本映画は本当に元気だった。大傑作ではないが、今の映画には負けてません」

 ただ、緑川さんもロケは見ていなかった。いただいた当時の記事などを手に、とりあえず常磐湯本へ向かった。

 ストーリーは笑子の故郷常磐湯本で急転する。無理なロケでシナリオは破綻。そこに笑子が「母親殺し」「一家心中の生き残り」という地元のうわさが漏れ聞こえ、彼女も姿を消す。その笑子を捜し盆踊り会場(ここは内郷)や温泉街をさまようべーやんの前に謎めいた女が...。

 84年夏は全国的に雨が降らず猛暑が続いた。その中、いわきロケは8月中、下旬の11日間行われたと当時の記事にある。映像からも蒸し暑さが伝わる。

 そんな場面の中で場所がはっきり分かるロケ地の一つが、湯本の元劇場「三函座(みはこざ)」だ。地図を手に目的地へ向かうと、路地の奥に更地があった。建物は解体され、今は痕跡もない。

 やれやれ、と近くの食堂に入った。すると取材が突然転がり出した。食堂「玉半」の2代目、白石律多子(つたこ)さん(66)が「ロケ隊の人たちは、うちでご飯を食べていった」と言う。

 白石さんによると、三函座でのロケはおよそ1日。西田敏行は三函座主人の家で食事し、スタッフらしい男性数十人が玉半で昼食を取った。「ぼろぼろのTシャツとジーパンの人ばかりだなあと思った。西田さんは気さくで、一緒に写真に写ってくれた」と言う白石さん。映画を見ていない彼女に、そんな撮影スタッフの物語ですよ―と説明すると「じゃあ、店には俳優さんもいたのかしら」と笑った。

 白石さんと息子で現店主の亮さん(39)には、映画に出てきた駄菓子屋やスナックについて聞くが、目と鼻の先にあった当時の建物はほぼなくなっていた。三十数年の変化をかみしめ、海へ向かった。

 荒波待ち撮影

 太平洋を望む断崖付近では、緑川さんが絶賛するクライマックスシーンなどが撮られた。しかし、資料を読むとロケ地はいわき市の隣、茨城県北茨城市の五浦岬周辺と分かる。気を取り直し夏井川河口を目指す。

 河口近くの新舞子浜は、波にもまれ走る大楠道代らを、クレーンにつるされた西田敏行が撮影する冒頭場面のロケ地。撮影は、いわきロケ最終日、台風一過の荒波を待ち行われたという。俳優たちがおぼれそうになるなど、キツかったらしい。記者がたどり着いた時も波は荒く、しかし、これも映画と同じく青い海と空が広がっていた。

 この映画は、泥くさく貧乏くさい地方出身者の物語だ。それで地元では忘れられているのかもしれない。劇中、べーやんは撮影したフィルムを「呪われた傑作」と言うが、この映画自体を指しているようでもある。しかし爽快感は本物。底抜けに明るい海と空が、その理由かもしれない。(一部敬称略)

【映画・ロケーション】いわき市

 【アクセス】三函座跡、玉半へはJR湯本駅から徒歩約10分。湯本駅周辺のいわき湯本温泉街までは、常磐道いわき湯本インターチェンジ(IC)から車で約10分。新舞子浜へは、JRいわき駅から車で約30分、常磐道いわき中央ICから車で約30分。

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 【作品の見どころ】一家心中の生き残りというヒロイン笑子の境遇が分かり、ロケ隊は、彼女をカメラで追い掛けシナリオを作っていこうとする。ここから話は急展開。スタッフたちは、笑子に振り回され内郷の盆踊り会場、湯本の温泉街、墓場、旧三函座、さらに心中現場の断崖絶壁と、いわきとその周辺を巡る。特に温泉街の幻想的な描写は印象的だ。そして網小屋の場面、笑子と謎の女との修羅場が、スタッフたちと観客をのみ込んでいく。美保純が常磐ハワイアンセンターの舞台でフラを踊るシーンも必見。

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 【旧三函座】明治30年代に芝居小屋としていわき市常磐湯本町に建設された木造建築物。大正時代から映画館として、炭鉱町の娯楽を支えた。1982(昭和57)年に閉館となったが、2007(平成19)年、国の登録有形文化財に登録された。しかし、東日本大震災で被災し13年6月解体された。