【映画・裸の太陽】郡山市、白河市ほか 小さな駅、青春そのもの

 
新緑に包まれた舞木駅のホーム

 県内を「舞台」にした映画には3タイプある。一つは、舞台設定は県内だが撮影場所は県外。もう一つは、ロケ地は県内だが劇中の設定は全く別。この二つが大勢を占める。舞台の設定が県内で、ロケも同じ場所で行われている「設定・ロケ地完全一致」の作品は、それほど多くない。

 ただ、完全に一致はせずとも地元の者としては、それはそれで面白い。身近な場所で撮影された場面が出てくれば、ついついうれしくなる。映画「裸の太陽」は、そんな味わいにあふれた作品だ。

戦後、象徴的に

 「裸の太陽」は1958(昭和33)年に全国公開された、東映東京製作の現代劇である。地元ゆかりの作品の自主上映を続けている、いわきノスタルジックシアターの緑川健代表が「郡山市などが舞台だが、地元の人もほとんど知らない映画」だと紹介してくれた。

 確かに、劇中の舞台は「ある田舎町」と、DVDの解説文にあるだけ。公開から60年以上たち、地元で撮られたことを覚えている人は少なそうだ。題名も抽象的で、どこが舞台かという以前に、一体どんな映画なのかイメージすることも難しい。

 ともかくDVDで鑑賞した。物語は、江原眞二郎扮(ふん)する蒸気機関車(SL)の機関助士(解説には「カマ焚(た)き」とある)雄二と、丘さとみ演じる、紡績工場勤めの女性ゆき子との青春ラブストーリーだ。モノクロ映像で、主人公が乗るSLの疾走シーンは硬質だが、描かれるのは50年代の若者たちの、ほほ笑ましい日常である。

 ストーリー展開は、のどかで平凡だ。だが、映像は美しい。例えば冒頭。SLが走り抜けると、大きな空と原っぱや水田が広がる。そこに白いブラウス姿のヒロインが走りながら現れ、恋人の乗務するSLに向かって右手をぐるぐる回す。この牧歌的な開放感が、題名のいかついイメージを壊してくれる。

 街の風景や職場の様子、登場人物の服装も印象的だ。戦前を引きずった古くささと、急速な経済成長を反映した新しさが同居している。少し薄暗い喫茶店でかき氷を食べる雄二とゆき子のデートシーンは、まさに戦後。終戦から十数年後の社会の活気がまぶしい。

 ただ、60年以上前の郡山を知らない身としては、映し出された場所がいまひとつ判然としない。時折出てくる平たんな道と、その向こうに山の見える風景が「郡山らしく」は思えたのだが。

 そこで助っ人をお願いした。

 郡山水と緑の案内人の会や、おもてなし福島通訳ガイドの会などに所属する昆愛(こんあい)さん(郡山市)が「裸の太陽」のロケ地に詳しいという。緑川さんを通じ取材を申し込むと「では、舞木駅で会いましょう」と返信が来た。

当時の姿残す

 JR舞木駅は、郡山駅のひと駅先にある磐越東線の無人駅(現在)だ。郡山市内で一番東の駅で、桜の名所でもある。桜の散った後も、新緑の中で鳥たちのさえずりが響いていた。

 「映画の中で、撮影場所がはっきり分かるのが、ここなんです」。昆さんによると、ほかに劇中で峰山機関区として出てくる鉄道施設は国鉄郡山機関区、レース工場は日東紡績富久山工場(現富久山事業センター)で撮影されたことが分かるが、外からは見えず、当時とは様変わりもしているようだ。しかし、舞木駅のホームや石段は、ほぼ当時のまま残っている。

 確かに劇中、列車(客車)で雄二と口論したゆき子が、逃げるように途中の駅で降りるシーンがある。そこに出てくるホームの様子、特に駅舎とホームの間の短い石段は、確かに今の舞木駅のものに見える。

 この駅のシーンは短く、物語の本筋にも関係はない。唐突な感じさえする。しかし、みずみずしい緑に包まれた小さな駅に立つと、青春映画を撮るスタッフたちが、この場所をロケ地に選んだ理由が分かる気がした。

 このほか、ゆき子がSLに手を振る冒頭のシーンは、日東紡の工場に近い郡山市富久山の磐越東線沿い(舞木駅の2、3キロ西)のようだ。「広々として、近くに工場、遠くにうっすら安達太良山でしょうか、山並みが見えますからね」と昆さん。

 まだある。ゆき子が日傘を差し渡る鉄橋は、郡山駅の南で東北線をまたぐ東橋。雄二とゆき子が列車に乗る地元の駅は白河駅。海辺のシーンはいわき市の勿来海岸。二人が買い物に出掛けた街は宇都宮市。喫茶店のある街並みは埼玉県川越市。

 「つまり、いろいろなロケ地で撮った映像をつなぎ合わせた映画。ただ、全体の8割は県内、半分は郡山市内の映像のようです。鉄道ファンも含め、県内の人たちには楽しい映画のはず」と昆さんは言いながらも「映画『百万人の大合唱』とは違い、地元で撮られたことを知っている人に会ったことがありません」と少し残念そうだ。

舞木駅の地図













 【舞木駅へのアクセス】JR磐越東線で、郡山駅から約5分、いわき駅から約1時間30分。車では、磐越道郡山東インターチェンジから約10分。

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 【あらすじ】ある田舎町で機関車の機関助士をする木村雄二と、レース工場で働く森田ゆき子は、将来を誓い合った恋人同士。二人は、乏しい給料から結婚資金をためていたが、ある日、雄二が親友の前田にその資金を貸したことから、雄二とゆき子の間に不穏な空気が流れ出し...。やがて物語は、雄二とゆき子の愛の絆、そして二人を取り巻く人々の哀歓を浮き彫りにしていく。(東映ビデオ「裸の太陽」解説より)

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 【働く若者の美しさ】DVDのパッケージに「働く若者たちの美しき青春を描く感動巨編!!」「幸せはここにある!限りなき愛の歓喜に満ちた、真夏の二日間。湧きあがる微笑と美しい感動の青春大作!!」とある通り、「裸の太陽」は働く若者たちを主人公にした青春映画で、芸術祭参加作品。

 監督は「雲ながるる果てに」などの名作映画で知られる家城巳代治(いえきみよじ)。脚本は「愛妻物語」(監督、脚本)や数々の社会派映画で有名な新藤兼人。音楽は芥川也寸志。

 新藤の監督作品には本作と同様、題名に「裸の」が付く「裸の島」「裸の十九才」がある。

 撮影当時、主演の江原眞二郎は21歳、丘さとみは22歳で、同年代の主人公を演じた。助演は映画「人間の條件」の主人公役でブレイクする直前の仲代達矢と、後に江原と結婚する中原ひとみが務めた。