【TRY・イノシシ駆除(下)】完成小物、愛らしさに「完敗」

 
斎藤さん(右)の指導を受け、「イノキー」作りに挑戦する記者。弾力があり、針を通すには力が必要だ

 イノシシの捕獲がかなわず、諦めきれない記者が紹介された施設。それは伊達市農林業振興公社の作業場だった。所狭しとカラフルでおしゃれな革製品が並んでいる。「全部、あのイノシシから生まれた商品なんです」。イノシシの革を使い、新たな特産品として売り出していた。(県北支社・石井裕貴)

 笑顔で出迎えてくれた職員の斎藤知世さん(35)に話を聞くと、箱わなの仕掛けでお世話になった伊達市鳥獣被害対策実施隊が捕獲するイノシシの革を使っているという。

 駆除に取り組む2人が作業場を紹介してくれた意味は何か。農作物に被害をもたらすイノシシだが、人間に恩恵をもたらすこともあると、教えたかったのかもしれない。そう思った。

 イノシシの皮を下処理する「なめし」を施した1頭分の革を手に取ると驚くほど軽い。そして、野山を駆け回るイノシシと思えないほど高級な革製品に生まれ変わっている。ブランド名は「ino DATE(イーノ伊達)」だ。

 今回は特別にデザインと、製作を担う斎藤さんの手ほどきで、人気商品のキーホルダー「イノキー」を作ることに。縫い合わせるために針を革に刺すと、なかなかの弾力。「この仕事をしてから指圧が鍛えられましたね」と笑いながら、斎藤さんがすいすいと縫い上げる。だが、そもそも手先が不器用な記者。苦労した。

 「ぜひイノキーを草むらに置いてみてください」。斎藤さんに促されるまま、ほかの製品と一緒に置いてみた。まるでイノシシが自然に戻ったようで「かわいい」と声が出てしまった。

 イノシシ革は摩擦に強く、耐久性がありながら軟らかい。特長は多く、毛穴が多いため通気性にも優れている。イノシシとの「決闘」と鼻息荒く始まった今回のトライだったが、気付かされたことが多かった。野生動物との共生の在り方に考えを巡らせながら、イノキーを取材バッグに取り付けた。

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 ino DATE(イーノ伊達) 伊達市農林業振興公社が手掛けるイノシシ革のオリジナルレザーブランド。原発事故の影響で食用としての活用が難しくなったイノシシ革を有効利用するため設立された。全て手作りで名刺入れや小物入れ、幼児用靴、トートバッグなどの商品がある。