【TRY・ホシガレイ飼育】感染予防、水槽ゴシゴシ「丁寧」に

 
伊藤さん(左)の指導を受けながら、ブラシを動かす記者。場所をなかなか譲ってくれないホシガレイに手こずった

 幻の高級魚とも呼ばれるホシガレイの漁獲量を陰で支える人たちが相馬市にいる。稚魚を育て、放流している県水産資源研究所の職員だ。ヒラメの2倍以上の単価で取引されるホシガレイは、漁業者からのニーズも高い。飼育するには、どんな苦労があるのか。その業務にトライした。(相馬支局・丹治隆宏)

 記者が向かったのは、研究所内の魚類棟。水槽をのぞいてみると、小さな稚魚の姿はどこにもなく、体長約40センチほどの成魚100匹ほどが水底でうごめいていた。

 「稚魚を育てるのは、1月下旬から4カ月程度。でも、そこだけが仕事ではないんです」と主任研究員の伊藤貴之さん(37)が教えてくれた。ホシガレイの卵を採取するのは、4歳になってから。親の育成も重要な業務だ。

 飼育する間、最も気を使うのが感染予防なのだ。「水槽の中は"密"なので、病気が出ると、すぐにまん延するんです」と伊藤さん。感染症が怖いのは、人間も魚も一緒のようだ。

 海底で生活するホシガレイは、水槽の底で1日のほとんどを過ごす。底が汚れると、細菌などが増え、思わぬ病気を引き起こす可能性もある。

 そのため、週に1度の清掃は欠かすことができない。早速、トライだ。3メートルほどの長い柄がついたブラシを持って、水槽の縁に登ると、ホシガレイが勢いよく跳ねた。身が厚く食べ応えがあるホシガレイは、それだけ力強い。

 静かにブラシを水底に入れると、逃げる魚がいる一方、場所を譲らないマイペースな魚も。傷つけないように気を付けながら、水槽中央の排水溝に汚れを押し出していく。「ブラシの浮力と水圧があるため、腕への負担は大きいんです」と伊藤さんは苦労を語る。

 餌やりは2日に1回、動物性たんぱく質を原料にしたペレット状の配合飼料を与える。池のコイに餌をやるように、「ばらまきたい」との衝動がこみ上げてくる。だが、伊藤さんは1粒ずつ与え、餌に食いつくホシガレイの様子を真剣に見つめる。「餌を食べるときが、魚の健康状態が一番分かる」と伊藤さん。餌やりは魚の体調チェックの時間でもあったのだ。

 ホシガレイの卵を採取するのは来年1月。ふ化後、手塩にかけて6センチ程度に成長させた稚魚を、6月に海へと放つ。漁獲されるのは、それから約3年後になるという。「ホシガレイが、震災や原発事故で被害を受けた本県漁業の再生の星になってほしい」。伊藤さんの声に力がこもった。

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 県水産資源研究所 前身の県水産種苗研究所(大熊町)が東日本大震災と原発事故で被災。2018(平成30)年の組織改編に伴い、相馬市に新たな施設を建設し、再出発した。1年間にヒラメの稚魚100万匹、アユの稚魚300万匹、アワビの稚貝100万個を生産する能力がある。魚介類に放射性物質が取り込まれるメカニズムに関する研究にも取り組んでいる。