【TRY・騎馬武者(上)】乗馬初心者、いざ憧れの相馬武士へ

 
松浦さん(右)の指導を受ける記者。馬に「なめられている」という状況の中、必死の特訓が続いた

 憧れの騎馬武者になりたい―。相馬野馬追の開幕を前にその思いが強まってきた。南相馬市原町区を本陣とする中ノ郷騎馬会の会長中島三喜さん(73)に弟子入りを直訴すると、「仲間に声を掛けておく。毎朝4時半集合で乗馬の特訓だ」とありがたい言葉が返ってきた。勇ましい相馬武士を目指す特訓の日々が始まった。(浪江支局長・渡辺晃平)

 特訓場所は南相馬市の松浦ライディングセンター。心地よい朝日が降り注ぐ中、騎馬武者となる騎馬会のメンバーが乗馬練習に励んでいた。中島さんに紹介され、センターを運営する松浦秀昭さん(78)に特訓を申し込むと「早速、乗ってみるか」と一言。落馬などによるけがに備えてスポーツ保険に入り、ヘルメットも装着して準備万端だ。

 だが、いざ大きな馬体を目の前にすると、緊張が走る。もしも蹴られたらひとたまりもなさそうだ。早速、「ほれ、勢いよく乗って」。松浦さんの指示で恐る恐る馬にまたがった。おお、目線が高い...。

 冷や汗が出る中、次の指示が出る。「両足で馬の脇腹を蹴って前に進んで」。見よう見まねで前進の合図をすると、人馬ともどもぎこちなく前に進み始めた。

 意外に簡単かもと思ったのもつかの間。記者に次々と指示が飛ぶ。次は左右の方向転換。「行きたい方向の手綱を引いて、馬に指示を出して」。さっそく記者は「右!」と声を掛け、手綱を引いて合図を送ると、馬はすぐに立ち止まった。

 「右だ! 右!」。何度か合図を送り直しても、馬は微動だにしない。松浦さんによると、手綱さばきや体の重心の置き方が悪く、馬は「止まれ」の合図と受け取ったようだ。

 そして、もう一つの理由があった。「馬になめられてるんだ。馬は乗る人のことをよく見てるからな」と松浦さん。馬は記者の一つ一つの動作を観察し、「臆病な乗馬初心者」だと一発で見抜いていた。

 馬は視野約350度の目から背中に乗る記者をちらっと見て、正面に向き返る。その後に「ブルルル!」と鼻を振るわせた。その姿は記者をからかっているかのよう。

 こうして初日は終わった。松浦さんからは「毎日、馬に触れ合って仲良くならないと」とアドバイスを受けた。馬の世話から覚えるため厩舎(きゅうしゃ)の掃除へ。じめじめとした朝の空気に混じる馬ふんのにおいを感じながら一人誓った。「また、明日から頑張ろう」

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 松浦ライディングセンター 1981(昭和56)年3月に開設された。敷地内には約1700平方メートルの馬場と厩舎が設けられている。現在は競走馬として活躍したサラブレッドなど13頭が飼育されている。早朝の馬場では、相馬野馬追に出場する騎馬武者が乗馬の鍛錬を積んだり、中学生が馬術練習に励んだりしている。