【TRY・騎馬武者(下)】甲冑総重量30キロ、伝統背負い出陣

 
本物の甲冑を身に着け、憧れの「騎馬武者」となった記者

 「さあ、着てみるか!」。中ノ郷騎馬会の会長中島三喜さん(73)は、軽トラックの荷台に何やら物騒な武具を積んで、南相馬市の松浦ライディングセンターにやって来た。甲冑(かっちゅう)だ!

 江戸時代から伝わる本物の甲冑を手配し、記者に貸し出してくれた。数百万円はくだらない代物だ。「甲冑姿で馬に乗ってみろ」。そう笑顔で話す中島さんと松浦秀昭さん(78)が着付けを手伝ってくれた。

 小さな椅子に座り、はかまや足袋、わらじを身に着け、いよいよ甲冑の登場。胴や手、足の各部を守る装備を身に着け、白鉢巻きを頭に巻く。最後にかぶとを着けて、2本の刀を腰に差した。2人掛かりで約30分の着付けが終わった。

 勇ましい甲冑武者の誕生だ。かぶとの正面に突出した金色の竜が威厳さを示している。「いざ行かん」とばかりに椅子から力強く立ち上がろうとすると、体がよろけて、うまく立てない。

 「重い!」。甲冑の総重量は約30キロ。何とか踏ん張って直立したが、全身の筋肉がやや震えている。武者震いではない。甲冑の重さによるものだ。だが、武者に弱音は禁物。「大丈夫か」と心配する中島さんに「平気です」とうそをついた。

 馬場では、和装した「相馬野馬追仕様」の馬が待ち構えていた。いざ騎乗だ。中島さんら数人の助けを借りて、一気に馬にまたがり、野馬追の旗を背中に差してもらった。

 「では出陣!」。松浦さんの命令を受け、馬に前進の合図を送る。甲冑の動きづらさに戸惑うものの、大丈夫だ。馬はちゃんと歩みを進めている。乗馬の振動でカラッカラッと甲冑が擦れる音が鳴る。風を受けた旗がぱたぱたとたなびいた。
 乗馬特訓の開始から約1カ月。たくさんの協力があり、憧れの騎馬武者となった。「誠にご苦労。本番で待っているぞ」。中島さんのねぎらいの言葉が馬場に響いた。

 今年も「省略」に

 24日に開幕する今年の相馬野馬追は新型コロナウイルスの影響で、2年連続で規模を大幅縮小した「省略野馬追」となる。騎馬武者の多くは出陣がかなわない。それでも中島さんたちは「来年こそ」の思いで、馬や武具馬具の手入れをやめない。近年は震災や原発事故からの復興の象徴として絶えず行われてきた伝統行事に、いつの日か記者も初陣を果たし、雲雀ケ原(ひばりがはら)の夏草を駆けてみたい。

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 相馬野馬追 1000年以上の歴史と伝統を誇る相双地方の国指定重要無形民俗文化財で、毎年7月下旬に南相馬市の雲雀ケ原祭場地を中心に行われる。捕らえた馬を神馬として奉納して地域の平和と安寧を願う神事のほか、神旗争奪戦や甲冑競馬などで騎馬武者たちが勇壮な戦国絵巻を繰り広げる。