【TRY・福島県警機動隊(上)】立ちはだかる「鬼軍曹」

 
最後の3周目で隊列から離脱し、天を仰ぐ記者(中央)。隊員の皆さんの励ましに胸が熱くなった

 事件や事故などの取材を担当する社会部に配属されて1カ月。警察が担う業務の幅の広さに驚く日々を送る中、治安警備や災害救助などを担う県警機動隊にトライする機会が巡ってきた。屈強なイメージに尻込みするが、身をもって仕事を知るせっかくの機会だ。やるしかない。気を引き締め、拠点としている福島市の県警機動センターに向かった。(報道部・副島湧人)

 建物に入ると、意外にも隊員が優しい笑顔で迎え入れてくれた。今回指導してくれる管理第2係長の塙健さん(34)だ。「きょうは基本的な訓練をしてもらうから安心してね」との言葉をもらい、一安心。

 ただ、周りを見ると隊員の皆さんは大きくて、強そう。それもそのはず。隊員たちは柔道や剣道、逮捕術などで県警トップレベルの警察官でもあるのだ。

 まずは、新人隊員が1カ月にわたり取り組む「集団訓練」に挑戦させてもらう。濃紺の出動服に着替え、プロテクターとヘルメットを着用。そして、感染防止対策のためのマスクも。見た目だけは隊員に変身した。

 集団訓練は、一糸乱れぬ動きを身に付け、チームワークを深めることが目的の一つだ。早速、隊員の列に加わる。直立したまま、塙さんの合図に合わせて手を「前に」「横に」と一生懸命動かしたが、周りからワンテンポ遅れる。緊張のせいだろうか。

 続けて合図と一緒に、高さ約1メートル、横約0.5メートルの盾を縦、横、斜めに向けて突き出す訓練だ。ずしりと重い銀色の盾を受け取ると、裏に白虎が描かれていることに気付いた。白虎は県警機動隊のシンボルマーク。虎は一日で千里を往復するという言い伝えから「無事に戻る」との願いも込め、かつての隊員が描いたという。

 危険な職務に当たる隊員たちを想像し、胸が熱くなる。気持ちとは裏腹に盾を動かして声を出すことで精いっぱい。動きを合わせることなど全く無理だ。腕は終始プルプル。塙さんの顔も「鬼軍曹」のように見え始めた。

 仕上げは、装備品を身に着けて1周800メートルを走る。しかも掛け声と足をそろえてだ。何がつらいかなど説明するまでもないだろう。強いて言うなら地獄だ。最初の2周は隊列を崩さず何とか付いていけたが、3周目で限界に達した。思わず盾を置き、列から離れて天を仰いだ。

 すると「盾を置いていいので最後まで全員で走りましょう」。後ろを走る隊員が背中を押してくれた。これが隊員同士の絆なのか。ここでも胸が熱くなった。盾にある白虎と目が合い、気合を入れ直す。一度は列から離れて遅れたが盾を持ち直して列に戻り、何とか2400メートルを走り切った。少しばかり充実感を味わっていると、災害現場を模した訓練場に並ぶ廃車が見えた。

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 機動隊 各都道府県警察に設置されている部隊。福島県警は現在、約70人の隊員が所属しており、平均年齢は28.9歳。東京五輪などのスポーツ大会や大きなイベントでの警備を担当する。ほかに災害現場での救助作業をはじめ、事件捜査での捜索などにも対応する。隊員の活躍の場は幅広い。