【TRY・消防隊員(下)】プロフェッショナルは実践より、まず訓練

 
「人命検索」訓練に臨む記者。煙は濃く、5メートル先はほとんど見えない。懐中電灯を手に必死に出口を目指した

 過酷な訓練は続く。高さや煙との闘いだ。まずは高さ15メートルのはしごを素早く登る「はしご登はん」訓練だ。「7メートルの高さから降下したんだ。もう怖いものはない」。しかし、はしごを前にするとその覚悟は揺らいだ。(喜多方支社・斎藤優樹)

 喜多方地方消防本部の隊員たちは素早く命綱を締めると、リズム良くはしごを登っていく。その姿は寸分のずれがなく美しい。訓練の隊長を務める伊藤和司さん(41)は「はしご登はんはスピード勝負。こつは(体の)軸をぶらさずに姿勢を保つこと」とアドバイスしてくれた。

 スピード勝負といっても安全が第一で、「三点支持」の確保が重要だ。両手、両足の4点のうち3点がはしごから離れてはいけない。

 はしごに手をかけ、いよいよ本番だ。ゆっくりと確実に登ることを意識した。途中で下を見ることなく、登り続けると、何とか15メートル地点に到達した。

 そして恐る恐る地面を見た。思ったほど怖くない。7メートルの高さを登ったり、降下したりする「引き揚げ救助」訓練を経験したからだろうか。2回目は勢いよく駆け登ることに成功した。

 伊藤さんは「姿勢もよくしっかり登れていた。センスがありますよ」と褒めてくれた。しかし、肝心のタイムは記者が14秒台に対し、隊員の皆さんは6秒台。一朝一夕ではどうにもならない差を感じた。

 煙の中、あたふた

 続けざまに「人命検索」訓練にも挑戦した。煙が充満する部屋から救助する人を捜し出し、戻ってくる訓練だ。防火服に着替えてボンベなどの「空気呼吸器」を背負う。総重量は約20キロで見た目以上の重さだ。

 訓練塔の中に入り、煙が充満する部屋の前についた。マスクをかぶり、空気の吸い方を学んで訓練開始だ。ボンベの減りは人によって異なり、記者の場合は活動できる時間を約20分程度と想定して部屋に突入した。部屋の中は想像以上に煙が濃く、マスクをかぶったことで視野が狭い。低い姿勢を保ち、壁の位置を確かめながら、前方に危険物がないかどうかを探る。

 前が見えないだけで不安だが、息もしづらい。何とか部屋を出たが、約4分の突入で、通常消費で10分相当の空気を使っていた。実際の火災現場は煙に加え、炎や熱もある。隊員たちの冷静な活動は、訓練のたまものだと痛感させられた。

 伊藤さんは「実践で対応できるように準備して訓練を積み重ねる。『安全に、確実に、迅速に』が鉄則。どれが欠けても駄目なんです」と教えてくれた。

 訓練を振り返ると、命綱の強度を互いに確認するなど隊員同士で声を掛け合っていた。準備を怠らず、密に連絡して確認する。プロフェッショナルの仕事の神髄に触れた気がした。