【羊飼育(下)】メェ~っちゃ刈れた!全身の毛4キロ分

 
もこもこの毛が刈り取られ、スッキリとした羊のフユカちゃん

 畜産農家の一日は忙しい。親羊の出産の準備をした後は、もこもこの毛に覆われた羊の毛刈りにトライした。(郡山総支社・阿部二千翔(にちか))

 綿羊舎にいる78匹の羊を顔の特徴などで見分けているという「アニマルフォレストうつしの森」の代表吉田睦美さん(34)が連れてきたのは、フライスランド種のフユカちゃんだ。体重は65キロほど。毛刈りをさせていただく羊だ。

 吉田さんによると、品種改良された羊は季節によって毛が生え変わらない。品種にもよるが、1年に15~20センチほど毛が伸びるという。暑い夏を乗り切るためにも1年に1回、春に毛刈りを行っている。

 まずは吉田さんがお手本を見せてくれた。大きな電動バリカンを使い、慣れた手つきで毛を刈り取っていく。「バリカンの重さを利用しながら体に沿うように刈り取ります。毛を引っ張りながら刈ると、皮膚に穴が開いてしまうので気を付けてください」。吉田さんにこつを教えてもらい、いよいよ実践だ。

 吉田さんにフユカちゃんの体をしっかりと押さえてもらいながら、恐る恐るおなかの辺りにバリカンを入れる。だが、思うようにバリカンが進まない。「痛くないかな...」。フユカちゃんをけがさせないよう気を付けるあまり、バリカンを当てる位置を間違えているらしい。

 「毛の先端の方の汚れの層と中間の脂の層は刈りづらいです。皮膚に近い、新しい毛の部分を刈ってみてください」。吉田さんからアドバイスを受け、もう一度トライする。すると、バリカンがすいすいと進んでいき、きれいに刈り取ることができた。

 緊張の時間は続く。記者の不安が伝わっているのか、フユカちゃんも少し不安そう。「ごめんね」。そう声を掛けながら刈り続け、1時間ほどでようやく全身の毛を刈ることができた。刈り取った毛はおよそ4キロ分。フユカちゃんもスッキリとして、うれしそうだ。

 作業を終え、吉田さんに2016(平成28)年に牧場をオープンしたきっかけを尋ねた。「原発事故後、福島は羊にとってすみにくい場所になってしまった。このままでは原発事故で福島の羊産業が消えると思ったんです」

 原発事故で危機に陥った県内羊産業の文化や技術をつなごうと田村市に牧場を開設し、日々奮闘する吉田さん。その姿を目の当たりにし、命の尊さや命をいただくことへの感謝の気持ちがあふれた。