【応急手当普及員(上)】心肺蘇生、焦りを抑えて

 
羽金さん(右)に胸骨圧迫をする際の体勢を教わる記者。焦る気持ちから、リズムが速くなってしまった

 「応急手当普及員になってみませんか」。郡山地方消防本部から本社に提案があった。応急手当ての重要性は韓国・ソウルの雑踏事故などで感じていたが、「普及員」とは何だろう。疑問と「自分にできるのか」という不安を抱えながら、郡山市の郡山地方消防本部に向かった。(編成部・続石悠海)

 出迎えてくれた同消防本部総務課広報担当の吉田武司さんによると、同消防本部管内で昨年あった心肺停止の通報458件のうち、一般市民が応急手当てをしたのは67%。場所別では路上などの「公衆」に比べて、「住宅」の割合は低いという。「家族の命、自分の命を守るために応急手当てを正しく学び、周囲にも伝えてほしい」と吉田さんは話す。

 応急手当ての指導ができる普及員になるため、講習ではまず、応急手当ての基本などを教わる。「応急手当ては時間との闘いです」。講師の郡山消防署救急係の羽金真奈美さんと山口佳那子さんは力を込める。迅速に自動体外式除細動器(AED)を使用することで、傷病者の生存率や社会復帰率が2・4倍も高くなるという。

 講習の次は、実践練習だ。心肺蘇生やAEDを使う1次救命処置に挑戦する。救急車が到着するまでに行うのは〈1〉倒れている人の意識の確認〈2〉周囲に協力を求める〈3〉呼吸の確認〈4〉心肺蘇生―の四つ。胸骨圧迫では訓練用人形の心臓辺りを手で押してみるが、思うように沈まない。肩幅に足を開き、人形の真上に肩が来る体勢で全体重をかけると、深く沈んだ。

 リズムは「うさぎとかめ」

 「1、2、3...」。胸骨の圧迫30回と人口呼吸2回のセットを繰り返していく。「時間との闘い」との言葉が頭をよぎり、焦る気持ちからリズムが速くなる。「童謡の『うさぎとかめ』のリズムで」と羽金さん。想像よりもゆっくりだ。5セットを終えた時に「終わりです」と羽金さんから声がかかった。2分ほどが経過していたが、実際の現場では救急車が到着するまで平均12分かかる。「一人で続けるには体力が必要で大変だな」と思い、周囲の協力の大事さを実感した。

 周囲に協力を求めるには、大声を出して呼びかけなければならない。今までは「恥ずかしい」と思っていたが、そうも言っていられないと感じた。「命を守るため、次に必要なことは何だ」。当初の不安は吹き飛び、心の中は使命感と次の課題をクリアする思いであふれていた。

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 応急手当普及員 心肺蘇生など消防が行う講習(延べ3日の座学と実技)を受講することで取得できる資格。取得すれば事業所などで講習を開くことができる。有効期限は3年。再講習を受ければ延長することができる。

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