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【歌謡編−(1)栄冠は君に輝く】軽快な旋律で空気一新

歌謡編−(1)栄冠は君に輝く

炎天下の三塁側スタンドで声援に声をからす福島商高の野球部員=7月11日、あづま球場

 “夏の高校野球”が1946(昭和21)年、西宮球場で再開され、翌47年には阪神甲子園球場に球音が戻ってきた。当時、福島市出身の作曲家古関裕而は、依頼された大会歌の曲想を甲子園で練った。(古関の自伝「鐘よ 鳴り響け」より)
 戦時中、古関は「戦時歌謡」を多く作曲した。「あの時代、軍歌などを作るしかなかった」。古関裕而研究家の斎藤秀隆さん(73)=福島市=によると、古関は戦後、結婚する次女への手紙で、多くの若者が自分の歌を聞き戦地へ向かったことへの苦々しい思いを吐露している。
 同じ苦い思いが、戦後の社会全体を覆っていたのかもしれない。連合国軍総司令部(GHQ)統治の下、復興が進む一方、労働争議や疑獄事件など敗戦の「余震」が続いていた。
 そんな時代の重い空気を吹き飛ばすように、古関が作った「栄冠は君に輝く」のメロディーは、明るく、軽快だった。
      ♪
 古関の福島商高(福商)の後輩で、同校の野球部監督(60〜63年)も務めた通称「がんてつさん」こと渡辺哲夫さん(79)=福島市=は、「栄冠は―」が甲子園で初めて歌われた48年中学に入学。野球と出合い、内野手で1番バッターとして活躍した。
 「戦後間もなく。はだしでグラブもろくになかった。レギュラーになっても、普通のシャツに学校のマークをつけて試合に出た」。プロ野球・巨人の長嶋茂雄終身名誉監督と同学年。多くの少年と同様、貧しいけれど、野球に夢中だった。
 その3年後の51年、夏の甲子園に戦後初めて県内の高校が出場した。福商だった。
 当時、甲子園出場を決めたのは、本県と宮城、山形各県代表による3県大会。同大会に出場するには県大会で優勝しなければならず狭き門だった。
 渡辺さんが福商に入学したのも同じ51年。だが「『栄冠は―』は全く覚えていない。実は甲子園にも行っていない」と言う。
 渡辺さんが野球部に入部したのが1年生の秋。実家の農業を手伝わねばならず、親の許しをもらうのに時間がかかった。「街場と違い、農村の家は皆、そんなものだった」
 仮に早く入部しても、おそらく甲子園には行けなかった。当時は、出場校でも甲子園に行けた部員はベンチ入りする14人だけ。遠方から応援に行く学校など皆無の時代だった。それだけ地方の球児にとって、甲子園は遠く輝いて見えた。
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 福商は、54年も甲子園出場を果たし、このころ第1次黄金期といわれた。練習に明け暮れ「最強だと、自分たちで思っていた」という渡辺さんのチームも3年生の53年、春の大会から負け知らず。夏の県大会を制した。
 しかし3県大会では準決勝、後のプロ野球・南海のエース皆川睦雄投手の山形・米沢西(現米沢興譲館)高に0―1でサヨナラ負け。「当然勝てると思っていた。それが完全に抑えられた。呆然(ぼうぜん)として涙も出なかった」
 渡辺さんがようやく甲子園出場の夢をかなえたのは、福商のコーチを務めていた66年。開会式の予行練習で「栄冠は―」が大音響で流れていた。
 「もちろん『栄冠は―』は知っていた。だが、そのとき初めてピンと来たんだ。歌うと胸に思いがあふれた」
     ♪ 
 「野球部が甲子園に出ると各校が応援団を送るようになったのが昭和40年代。社会が豊かになったのだろう。それ以降、この歌も全国に広がった」と同校OBでもある斎藤さんは話す。
 福商も、甲子園出場を重ね、いまやOBが集まると必ず「栄冠は―」を歌う。「甲子園に行った者は感激を思い出し涙する」と渡辺さんは言う。そしてこうも言う。「甲子園に行けなかった者は、自分たちの夢をあらためてかみしめ歌うんだ」
 今年も6日、「夏の甲子園」が幕を開ける。約70年前、焦土のなかで、球児たちに託しただろう再生への願いを乗せて、古関の旋律がグラウンドに響く。

  栄冠は君に輝く 1948(昭和23)年、「夏の甲子園」の第30回大会に合わせ、主催の朝日新聞社が作った大会歌。同年は学制改革で正式大会名も「全国中等学校野球大会」から「全国高等学校野球選手権大会」と改称された。歌詞は全国公募で石川県根上町出身の歌人加賀大介(1914〜73)の作品が当選。作曲が古関裕而(1909〜89)に依頼された。歌は、本宮市出身の歌手伊藤久男(1910〜83)が担当した。
(2015年8月3日 福島民友ニュース)



 

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