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【1】人生はやり直しできる 弁護士・諸橋仁智

2024/06/03 08:30

僕の法律事務所近くの路上で。人生のやり直しに遅すぎることはない
諸橋仁智さん

 僕は20代まで暴力団員、いわゆる「ヤクザ」だった。

 かつてヤクザのバッジを着けて義理場(襲名など儀礼の場)に出席したが、今は弁護士バッジを着け裁判所に出入りしている。

 ヤクザといってもエリートからチンピラまでいろいろだ。僕は落ちこぼれで、覚醒剤に溺れたどうしようもないクズ中のクズだった。それが弁護士として社会的地位と信用を得て、まっとうな仕事をしているのだから、当時の仲間はみんな驚いていることだろう。

 2022年にユーチューブ番組に出演し、ヤクザの経歴を公表した。過去をごまかしたり、偽って生きるのがつらかったからだ。以来、批判の声が寄せられるようになった。今では慣れてしまって、それほど頭にもこない。だが、この風潮はいけないと思う。

 ならず者を排除したい気持ちは理解できるが、根絶することは無理だ。常に一定数は不良になって社会に迷惑をかける。不良を排除したところで別の不良が現れる。ヤクザを排除して「半グレ」(暴力団に所属せず犯罪を行う)がすぐ台頭したことでも明らかだ。

 僕は不良を排除するのでなく、拾い上げられないかと考えている。最下層を切り捨てるのではなく、最下層を底上げすることで社会全体を向上させるのだ。

 刑務所を出所し、すぐ再犯した人が「シャバ(自由な生活)に居場所がなかった。刑務所に戻りたくてやった」と言うのをよく聞く。更生したいと思っていても、社会が受け入れてくれない現実があって、投げやりな行動になってしまうのだろう。

 僕の目指す役割は、更生を希望する人を地域に受け入れてもらう社会的風潮をつくり出すことだと思っている。そして、僕のような人間がいることで、人生に失敗したと感じている人の励みになり、人生のやり直しを考えてもらえたらうれしい。

 僕がそうだったように、人生のやり直しが遅すぎるなんてことは絶対にないのだから。(聞き手 国分利也)

     ◇

 もろはし・よしとも いわき市出身。磐城高卒。上京後、暴力団員となり覚醒剤中毒で強制入院し、覚醒剤取締法違反の罪で有罪判決を受ける。一念発起して宅地建物取引士、司法書士の試験に合格。2013年に司法試験に合格。23年4月、東京都内に諸橋法律事務所を開設した。

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