新型コロナウイルスワクチンについて。その5

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
新型コロナウイルスワクチンについて5
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

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 今回も新型コロナウイルスワクチンについて、厚生労働省と日本感染症学会からの記事を参考にしてお話します。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が進む中、わが国でも主にファイザー社製とモデルナ社製ワクチンの接種が進められています。ワクチンはこれまで多くの疾病の流行防止と死亡者の大幅な減少をもたらし、現在もたくさんの感染症の流行を抑制しています。COVID-19の感染拡大防止に、ワクチンの開発と普及が重要であることは言うまでもありません。
 一方で、ワクチンは感染症に罹患していない健常な人や基礎疾患のある人に接種することから、きわめて高い安全性が求められます。パンデミックのためにワクチン導入の緊急性だけが優先され、安全性の確認がおろそかになってはなりません。今回は前々回のワクチンの有効性についての追加情報をお話します。。

 1.実社会でのワクチンの有効性

 ファイザーとモデルナのワクチンの実社会での有効性は、アメリカ疾病対策予防管理センター(CDC)が発表しており、2回接種14日以後で発症者が90%減少、65歳以上のCOVID-19による入院率が94%減少、医療従事者の発症率が2回接種7日以後で94%減少したことが報告されています。
 ファイザーのワクチンではイスラエルで、接種した人としていない人とそれぞれ59万人を対象とした大規模な比較研究が行われ、接種した人では2回接種7日以後の発症が94%、入院率が87%、重症化率が92%減少したことが報告されています。さらに、定期的なPCR検査で確認した感染予防効果についても、1回接種後14~20日に46%、2回接種7日以後で92%という有効率が報告されています。
 無症状者を含む感染者の減少は、イングランドの2万3324人の医療従事者を対象とした研究でも、85%の有効率が報告されています。これらは発症予防だけでなく感染予防にも一定の有効性がみられる知見と考えられます。
 アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは、本来2回接種の予定でしたが供給量が十分ではなかったため、イギリスでは2回目の接種が遅れた例が数多く見られました。その結果、初回接種から2回目の接種までの間隔が12週以上の方が6週未満の間隔よりも有効率が高いことが明らかになりました(12週以上が81.3%、6週未満が55.1%)。またイングランドで行われた研究調査では、アストラゼネカのワクチンの発症予防効果は、1回接種の28~34日後で60%、35日後で73%に達し、COVID-19の救急での入院リスクを37%減少させました。

 2.変異株に対する効果

 変異株の中で、現在、日本及び世界中で増加しているデルタ株(B・1・617・2)は、ファイザーのワクチンを接種後の血清の中和活性(ウイルス感染を抑える抗体)は従来株の3分の1や5.8分の1に低下しているとの報告がある一方で、中和抗体価の大きな低下はないという報告もみられます。  また、従来型では1回の接種で中和抗体ができますが、デルタ株では2回接種しないと十分な抗体ができないとの報告もあります。実社会では、イギリスにおけるファイザーワクチンによるデルタ株の発症予防効果は87.9%であり、アルファ株の93.4%に比べて大きな低下はみられず、一定の効果は維持されると考えられます。
 この他に、国内ではE484K変異を有する新たなB・1・1・316(R・1)系統の株(起源国不明)が、関東・東北から全国に広がっており、ワクチンの有効性が低下する懸念があるため監視が重要です。

 3.12~15歳へのmRNAワクチンの接種

 ファイザーのワクチンは、海外の12~15歳を対象とした臨床試験のデータをもとに、わが国でも予防接種法の臨時接種として12~15歳に接種が認められました。モデルナ社製も同様に12歳以上が対象となりました。主に中学生に当たるこの年齢でも、家庭内、学校生活、クラブ活動などを通じて感染がみられていますので、接種する意義はあると考えます。しかしながら、わが国での12~15歳を対象とした臨床試験は実施されておらず、安全性の確認が十分ではない状況での承認は拙速な印象があります。
 一方で、小児は感染した場合も多くが無症状から軽症で経過しています。変異株の出現で小児の集団感染の報告もみられますが、日本小児科学会は、「現時点で変異ウイルスが子どもに感染した場合も、従来ウイルスより重症化する可能性を示す証拠はなく、多くが無症状から軽症で経過しています」としています。ただし、まれに重症化した報告があり、さらに基礎疾患のある小児は重症化する恐れがあるため、ワクチン接種の意義はあると考えられます。
 このような状況の中で、副反応の頻度が比較的高く、長期的な安全性がまだ確立していないmRNAワクチンの接種を12~15歳に進めるにあたっては、本人と保護者への丁寧な説明が欠かせません。接種する場合は、個人への丁寧な説明が困難な集団接種ではなく、医療機関における個別接種が望ましいと考えます。
 また、一部の自治体で予定されている中学校での集団接種は、生徒が周囲への遠慮から接種を断りにくく、また接種しない人への差別につながる可能性もあり、慎重に検討する必要があります。

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 次回も新型コロナウイルスワクチンについてお話します。

10月号より