新型コロナウイルス感染症について。その1

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
新型コロナウイルス感染症について1
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回は、最初に報告され約2年が経過しパンデミックになった新型コロナウイルス感染症について基本的な事を含め、改めてお話します。

1.病原体

 コロナウイルスはウイルスの一種で、新型コロナウイルスは動物由来といわれています。一部は軽症の風邪から重度の急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)などのより重篤な状態に至るまで、ヒトの呼吸器疾患を引き起こします。2019年12月、中国武漢市で発生した原因不明の肺炎は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因であることが判明しました。SARS-CoV-2が原因の感染症をCOVID-19と呼ぶようになりました。

2.伝播様式

【感染経路】
 感染者(無症状病原体保有者を含む)から、せき、くしゃみ、会話などの際に排出される飛沫・エアロゾル(飛沫よりさらに小さな水分を含んだ状態の粒子)の吸入が主な感染経路と分かっています。感染者に近い距離(通常は1メートル以内)で感染しますが、エアロゾルは1メートルを超えても空気中に留まることが多いことから、換気不十分な環境などでは感染が拡大する可能性があります。
【潜伏期・感染可能期間】(図1
 潜伏期は1~14日間で曝露から5日間で発症することが多いとされています。発症前から感染性があり、発症後間もない時期の感染性が高いことが特徴とされています。感染後も無症状で経過する人も20~30%いるといわれています。ウイルスは上気道と下気道で増殖していると考えられ、重症例ではウイルス量が多く、排泄期間も長い傾向にあります。感染可能期間は発症前2日から発症後7~10日間程度とされています。なお、血液、尿、便から感染性のあるSARS-CoV-2が検出されることはまれといわれています。
【季節性】
 COVID-19については、現時点では気候などの影響は明らかではありません。

3.臨床像

【発症時症状】
 発症時は発熱(52%)、呼吸器症状(29%)、倦怠感(14%)、頭痛(8%)、鼻汁(4%)、嗅覚障害(3%)、味覚障害(3%)となっており、インフルエンザ感染症に比べ、鼻汁が少なく、嗅覚障害、味覚障害が多い傾向にあります。
 SARS-CoV-2は肺胞上皮に感染して、ウイルス性肺炎を起こすと考えられています。
【臨床経過】
 SARS-CoV-2はまず鼻咽頭などの上気道に感染すると考えられ、40%の患者は1週間程度で治癒に向かいますが、約60%の患者は感染が下気道まで進展すると考えられています。肺炎が重症化すると激しい咳など、高熱の持続、酸素飽和度の低下などの症状が出て、生命の危機に陥ります。
【重症化のリスク因子】図2
 入院時の重症度に関わるリスク因子、入院後の死亡率が高い基礎疾患は表の通りです。

4.合併症

 COVID-19は呼吸器以外の臓器にも多様な病態をきたすことが報告されています。
 心血管系:急性期の不整脈、急性心障害、ショック、心停止、症状回復後の心筋炎などがあります。
 血栓塞栓症:肺梗塞や急性期脳卒中、心筋梗塞、深部静脈血栓症などの血栓塞栓症が報告されており、高い致死率との関連も報告されています。
 炎症性疾患:持続的な発熱、炎症マーカーの上昇などに伴う病態を呈することがあります。
 二次性細菌感染症・真菌感染症:COVID-19は二次性に細菌感染や真菌感染症を併発することがあります。特にICU入室者で約20%近くが侵襲性アスペルギルス症(真菌症)を併発して、予後不良因子になります。

5.小児の特徴

 小児のCOVID-19症例は、無症状か軽傷が多いことが特徴ですが、PCR検査で検出されるウイルスのゲノム(全遺伝情報)量は有症状者と変化ありません。小児で重症化するのは心血管系異常や悪性腫瘍の基礎疾患を有している患者と分かっています。

6.妊婦の特徴

 国内外のデータでは、妊婦がCOVID-19に感染しやすいことはなく、また、妊娠初期、中期で同年代の女性と比較して、重症化率や死亡率に差はなく、また、胎児に先天異常をきたした報告もありません。ただし、妊娠後期に感染すると、早産の割合が増加し、妊婦本人も一部は重症化することが報告されています。日本産婦人科学会の報告によれば、2021年7月末までに180人の妊婦の感染が登録されて、軽症が74%、中等度が25%、重症が1.7%でした。重症例は、31歳以上、肥満、妊娠25週以降、気管支喘息などの呼吸器合併症、アレルギー歴のある方などでした。

7.後遺症

 厚生労働省の調査で、中等度以上だった患者は退院後3カ月で、咳、たん、息切れなどの肺機能低下が遷延していました。そのほか、記憶障害や集中力低下などの精神・神経症状、関節痛、倦怠感、筋肉痛などの全身症状、また、味覚・嗅覚障害や動機などの症状が遷延しているとの報告もあります。味覚・嗅覚障害を認めた患者の1カ月後の改善率は味覚障害で84%、嗅覚障害で60%でした。

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 次回も新型コロナウイルスについてお話します。

月号より