脳卒中について。その36 【第4のリスク】喫煙その2

 
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。

 先月号までは、新型コロナウイルス感染症についてお話しましたが、今回からは以前のテーマ「脳卒中について」に戻ります。

 日本脳卒中協会が作った「脳卒中予防十か条」の第4は「予防には、たばこをやめる意思を持て」です。喫煙者は非喫煙者に比べ、脳卒中の発症リスクが1・5倍、脳卒中死亡率は男性1・8倍、女性2・8倍になります。また、高血圧の喫煙者は血圧が正常の非喫煙者と比較すると、18倍も脳卒中になりやすくなることを前回(2021年5月号)お話しました。今回は喫煙と脳卒中や心臓病などの循環器疾患についてお話します。

 1.喫煙と脳卒中

 脳卒中のなかでも、くも膜下出血のリスクが喫煙者は非喫煙者と比較して、男性で3・10倍、女性で2・26倍リスクが高くなっています。くも膜下出血は一回発症すると、約半分の方は亡くなってしまうか、後遺症を残してしまいます。ですから、発症を予防することが最も大切です。そのために血圧が高くならないようにすることと禁煙することが最も重要になります。

2207me1.jpg  次に喫煙と関係が深いのが脳梗塞です。ニコチンなどのたばこの有害物質が血管を損傷したり、脳梗塞の危険因子である心房細動の発症率を高めたりすることで、脳梗塞のリスクが高まります。そして、喫煙本数が増えれば増えるほど、さらに発症リスクが上昇します(図1)。また、脳梗塞は再発しやすい病気であり、喫煙者は非喫煙者より再発率が高いことがわかっています。

 2.喫煙と心臓病

 喫煙は心臓病とも深い関係にあります。特に虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)と関係しています。虚血性心疾患とは、冠動脈という心筋に栄養や酸素を送っている動脈に問題が生じて、心臓の筋肉に十分に血液が行かなくなり(虚血)、心臓のポンプの働きが十分にできなくなるものを指します。その原因となるのが動脈硬化です。動脈硬化とは動脈の壁が厚くなったり、硬くなったりして本来の構造が壊れ、働きが悪くなる病変を指します。つまり、喫煙は動脈硬化の進行と深い関係があります。

 なぜ、喫煙は動脈硬化を進行させるのでしょうか。喫煙者は血中の悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロールが多いとされています。たばこを吸うとニコチンをはじめとする有害物質が多く体の中に入ります。それらの有害物質は動脈の内膜を傷つけ、傷ついた内膜にLDLコレステロールが入り込み、さらに血小板などが付着して、血管内腔が狭くなります。これが動脈硬化です。

 また、ニコチンは副腎に作用してアドレナリンなどの興奮物質を分泌させて血管を収縮させます。そうすると心拍数が上がり、心臓の筋肉の負担が増加し、冠動脈が狭いと心筋に十分に血液が届かなくなり、心臓の痛みが生じます。それが狭心症です。さらに、悪化して冠動脈が閉塞してしまうと心筋梗塞になります。

 また、たばこに含まれている一酸化炭素は、血液中で酸素を運ぶ役割をしているヘモグロビンと結びつきやすく、血液が流れていても酸素不足になってしまい虚血性心疾患を起こします。非喫煙者に比べ、喫煙者は約3倍虚血性心疾患になりやすいといわれています。心筋梗塞に関しては一日の喫煙本数が1~14本だと3・2倍、15~34本だと3・6倍、35本以上で4・4倍と本数が増えればリスクが増大するといわれています。

 また、喫煙者は非喫煙者に比べると虚血性心疾患による突然死が約4倍といわれています。さらに、脳卒中の第3のリスクの心房細動は喫煙により、1・5倍発症しやすくなるとのデータもあります。たばこを吸うと、血中の酸素不足になり、わざわざ心臓に負担をかけることになるわけです。ですから、元々心臓の奇形や病気を持っている人は禁煙を徹底すべきです。

 3.受動喫煙(間接喫煙)と循環器病

 喫煙者の家族も受動喫煙によって、心筋梗塞の死亡率が1・3倍になるとされています。また、受動喫煙を受けている人のうち、1~3%の方が受動喫煙による心筋梗塞で死亡するといわれています。

 4.禁煙はリスク軽減に

2207me2.jpg 虚血性心疾患は禁煙を1~2年続けることでリスクを半分程度に低減できるといわれています(図2)。2~4年後には虚血性心疾患や脳梗塞のリスクは約3分の1に減少します。喫煙者は平均で10年寿命は短くなりますが、30歳、40歳、50歳、60歳で禁煙すると、それぞれ、10年、9年、6年、3年と寿命を稼ぐことができます。できるだけ早期に禁煙することが重要です。肺がんは10~15年禁煙を続けないとリスクを半分に低減できないので、それに比べれば、虚血性心疾患のリスク軽減効果は速やかと言えます。

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 次回も喫煙と健康問題についてお話します。

月号より