脳卒中について。その37 【第4のリスク】喫煙その3

 
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。

 前回は喫煙と脳卒中や心臓病などの循環器疾患についてお話ししましたが、今回は「喫煙とがん」について国立がん研究センターや厚生労働省からの記事を参考にお話しします。

 1.たばこと関連のあるがん

 たばことがんの関連については、数多くの研究が行われ、国内外の報告は一貫して、喫煙が肺がんをはじめとするさまざまながんの原因となると結論づけています。

 日本の研究では、がんになった人のうち、男性で30%、女性で5%は喫煙が要因だと考えられています(図1)。特に、男性では喫煙が要因の第一位に挙げられます。また、がんによる死亡のうち、男性で34%、女性で6%は喫煙が原因だと考えられています。

 厚生労働省の喫煙の健康影響に関する検討会では、喫煙と病気の因果関係を以下のように報告しました。この研究から、肺、口腔・咽頭、喉頭・鼻腔、副鼻腔、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱および子宮頸部のがんについて、喫煙とがんは強い因果関係があると結論づけています。

 特に、肺がんの死亡率は、喫煙者は非喫煙者に比べ、男性で約4・5倍、女性で約2・3倍高くなっています(図2)。また、喫煙本数が増えれば増えるほど、死亡率も上昇します。男性では1日にたばこを15本から24本吸う人は5・4倍、35本以上吸う人は8・4倍死亡危険度が増え、女性でも1日15本以上で3・1倍危険度が上昇します。さらに、喫煙期間が長いほど、生涯の喫煙量(喫煙期間×喫煙本数)が多いほど、がん発生リスクが上昇することもわかっています。

2208me1.jpg  2.たばこががんを引き起こす仕組み

 たばこの煙の中には5300種類以上の化学物質が含まれ、そのうち約200種類は有害物質、さらに約70種類は発がん物質です。その中には猛毒のシアン化水素や、ダイオキシンなども含まれています。なかでも健康有害性が大きいのが、タール、ニコチンと一酸化炭素、そして各種の刺激物です。注目すべきことは、主流煙より副流煙の方が、より多く発がん物質を含んでいるということです。

 たばこの煙の有害物質は口や鼻から肺に到達し、速やかに血液内に入った後、全ての臓器に行きわたります。その中で有害物質が通過する場所(口、喉頭、肺)にがんが発生しやすく、さらに唾液に溶けて通る場所(咽頭、食道、胃)、そして排泄される場所(腎臓、尿管、膀胱)にがんが発生しやすいことが分かっています(図3)。

 たばこによる発がんのメカニズムとしては、たばこの煙に含まれる発がん物質が細胞内で遺伝子変異を引き起こし、それらが蓄積してがんが発生すると考えられていますが、さらに、発がん物質の分解にかかわる酵素活性の遺伝子的要因も指摘されています。

2208me2.jpg  3.がん患者になった場合の喫煙の影響

 がん患者さんがたばこを吸うことは、再発、転移とは別に新たに発生するがん(二次がん)の原因となることが明らかになっています。喫煙量の増加に伴い、二次がんの発生リスクが高まり、逆にがんの診断後に禁煙すると、喫煙を続けた人に比べ、二次がんの発生リスクが低下することがわかっています。

 また、喫煙者が例えば肺がんになった場合に、治療の選択肢が少ないというリスクがあります。例えば、がんの治療薬として使用される「分子標的薬」という薬がありますが、男性喫煙者の場合にこの薬が使用できる可能性は、女性の非喫煙者と比較すると明らかに少なくなります。使用できても、重篤な副作用が出る可能性が高いというデメリットがあります。手術を考慮した際にも、喫煙者は手術や麻酔上の問題で手術がすぐにできなかったり、合併症が出やすくなったりして、予後は不良となることがあります。つまり喫煙は肺がんのリスクを上げてしまうだけでなく、その後の治療にも影響が出ます。

2208me3.jpg 4.喫煙者の早期死亡リスク

 アメリカ国立がん研究所の研究者は、1日平均1本未満でも継続的に喫煙していれば、早期死亡リスクが64%高くなり、さらに1日1本から10本喫煙していれば、非喫煙者に比べ早期死亡リスクは87%高くなると報告しています。喫煙はがん発症のリスク、そして早期死亡リスクが上昇しますので、喫煙しないこと、あるいは喫煙者は早期に禁煙することをお勧めします。

月号より