脳卒中について。その39 【第5のリスク】アルコール

 
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。

 今回は脳卒中の第5のリスク、アルコールについて、国立がん研究センターや厚生労働省からの記事を参考にお話します。

 1.アルコールの働き

 お酒を飲むと体が温かくなり、気分が晴れるような感じがします。その理由は、飲酒には体の血流をよくする効果があり、身体が温まり活性化するためです。また、アルコールは大脳新皮質(理性をつかさどる中枢)の働きを抑え、感情、衝動、食欲などの本能的な要素をつかさどる大脳辺縁系の働きが活発になります。すると精神が高揚し、気分が晴れる感じになるからです。飲酒は適量であれば、身体にも心にもよい影響を与えることが分かっています。

 毎日適度に飲酒する人は、全く飲まない人に比べて、心筋梗塞の死亡率が低い傾向にありますが、飲酒量が多くなるにつれて、死亡率が上昇することも分かっています。他にも、アルコールは動脈硬化を抑制するHDL--C(いわゆる善玉コレステロール)を増加させたり、赤ワインに入っているポリフェノールで動脈硬化予防、あるいは血液を固まりにくくさせたりするといった効果もあります。これらのよい影響は脳梗塞の発症に関してもいえます。アルコール摂取量が日本酒にして1日1合未満では、「時々飲む人」に比べて、脳梗塞は約4割少ないことが分かりました。

 2.1日平均日本酒換算で3合以上お酒を飲む人は、時々飲む人に比べて1・6倍脳卒中になりやすい

 しかし、アルコール摂取量が日本酒にして「1日平均3合以上」の人は、「時々飲む人(月に1~3回)」に比べて、1・6倍脳卒中になりやすいことが分かっています(図1)。アルコールには血圧上昇作用がありますので、高血圧の有無を考慮すると関係は少し弱くなりますが、依然として1・4倍脳卒中になりやすいことが分かっています。

220923me1.jpg

 脳卒中の中でもアルコール摂取と関係あるのは出血性脳卒中(脳出血)です。虚血性脳卒中(脳梗塞)の発症率はアルコール摂取量が増えても極端には増加しません。しかし、出血性脳卒中の発症率はアルコール摂取量が増えるのに伴い段階的に増加していきます。例えば、毎日2合以上飲む人は脳出血の発症率が約2倍、3合以上飲む人は約2・5倍になります(図2)。この理由としては、アルコールの血圧上昇作用以外に、アルコールの血液を固まりにくくする作用が働いているためと考えられています。

220923me2.jpg

 また、過度な飲酒により睡眠時間が短くなる場合には注意が必要です。睡眠不足と飲酒が重なると出血性脳卒中の死亡リスクが高まるというデータもあります。

 3.脳卒中にならないための適量は?

 脳卒中にならないためには、1日平均日本酒換算で3合未満にとどめておく必要があります。望ましくは1日平均1合未満の飲酒とすることが勧められます。ただし、1日平均1合未満の飲酒が脳梗塞にかかりにくいからといって、お酒を飲まない人に飲酒を勧めるものではありません。お酒に強い人と弱い人がいます。いくら飲んでも変わらない人もいれば、一口で酔ってしまったり、気分が悪くなってしまったりする人がいます。

 アルコールは肝臓でアセトアルデヒドという成分に分解されます。アセトアルデヒドは顔が赤くなったり、頭痛の原因となったりする物質です。日本人はアセトアルデヒドを分解するための酵素の働きが弱い人が多いようです。酵素の働きは生まれつきのもので、鍛えたりすることはできないため、お酒に強い人、弱い人がいて、つまり、お酒の適量は人により違うということです。酔う・酔わないと健康リスクは別物ですから、脳卒中予防のためには1日平均1合未満の飲酒が適量です。

 アルコールは生活に豊かさと潤いを与える一方で、過剰な飲酒は脳卒中の発症リスクが上昇します。適量のお酒とは、お酒によって健康になるという性質のものではないので、各々の体質も勘案しつつ、適量のお酒を飲んでもよい環境、すなわち適度な運動をして、バランスの取れた食事をして、生き生きとした健康的な生活をした結果として許される「節度ある適度な飲酒」ということです。