脳卒中について。その42 【第5のリスク】 アルコールと体の関係

 
 公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 アルコールを飲みすぎないことは脳卒中の予防になることは以前にお話ししました。今回は、アルコールと脳以外の体との関係についてお話しします。

 1.アルコールと発がんリスク

 アルコールは体に入ると、ある酵素の作用でアセトアルデヒドに変わり、その後、別の酵素の作用で酢酸に変わります。これらの酵素の働き(活性)には遺伝で決まった強弱があります。アルコールを分解する酵素の働きが特に弱い人は日本人の約7%にみられ、分解が遅いためアルコールが体に残りアルコール依存症になりやすくなります。アセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱い(低活性または非活性)人は日本人の約40%にみられ、アセトアルデヒドの分解が遅いため飲酒で赤くなり二日酔いを起こしやすくなります。

 アルコールとアセトアルデヒドはともに発がん性があり、この2つの酵素の働きが弱い人が飲酒家になると口腔(こうくう)・咽頭・食道の発がんリスクが特に高くなります。口腔・咽頭・食道のがんは1人に複数発生する傾向がありますが、飲酒と喫煙する人は相乗的に多発がんの危険性が高くなり、さらに野菜や果物の摂取不足も発がんリスクを高めます。口腔・咽頭と食道のがんでは禁酒によりリスクは低くなることが報告されており、禁煙と禁酒の両者に取り組めばさらにリスクは低下します。また、大腸がん、肝臓がんも飲酒との関係があるとされています。

 これまでの欧米を中心とした研究から、飲酒は乳がんリスクを上昇させることが確実であるとされています。しかし日本人女性は欧米女性と比較すると飲酒習慣も少なく、飲酒にまつわる背景が欧米とは異なることから、日本人では欧米人とは異なる傾向が認められる可能性が考えられましたが、これまで日本人を対象とした大規模な研究は行われていませんでした。

 そこで、日本を代表する8つの研究から15万人以上を統合したプール解析を行い、乳がんリスクと飲酒との関連、特に閉経状態に注目して検討されました。その結果、平均して14年の追跡期間中、2208人が乳がんに罹患しました。調査時の閉経状態に基づいて分類した閉経前乳がんにおいて、飲酒頻度では非飲酒者と比較して最も頻度の高い飲酒者の群で1・37倍、飲酒量では1日摂取量が0グラムの群と比較して23グラム以上の群で1・74倍、乳がんの罹患リスクが高くなりました()。また、飲酒の頻度、量ともに増加すればするほど罹患リスクが高くなる傾向がみられました。一方で、閉経後乳がんにおいては飲酒頻度、飲酒量ともに乳がんリスクとの有意な関連は認められませんでした。

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 2.アルコールとメタボリックシンドローム

 脳卒中にも関係するメタボリックシンドロームの要素は肥満症・高血圧症・脂質異常症・高血糖(糖尿病)などで、生活習慣病といわれます。飲酒はこの4つのいずれにも影響します。生活習慣病は、毎日の食事、飲酒、喫煙、運動などの生活環境や日常生活の積み重ねが原因で発症する疾患の総称です。

肥満:アルコール自体は1グラムで7キロカロリーの高カロリー物質です。9%の缶チューハイ500ミリリットルはアルコール分だけで250キロカロリーになります。ちなみに炭水化物は1グラムで4キロカロリー、脂肪は9キロカロリーです。肥満にはアルコール自体のカロリーだけでなく、脂っこいおつまみの食べ過ぎやアルコールによる食欲増進も関連します。

血圧:飲酒は少量から血圧を上昇させ、量が多くなるほど血圧上昇が起こりやすいことが知られています。そのため、飲酒量増加とともに脳出血のリスクが上昇します。

脂質異常症:飲酒により中性脂肪が増加することが知られています。その一方で、動脈硬化を抑制する善玉コレステロールも飲酒で増加する人が多く、一般的に中性脂肪と善玉コレステロールは片方が高いともう片方が低くなるというシーソーの関係があるので、どちらがより強く起きるかは飲酒量に加えて、遺伝的な個体差もあります。

糖尿病:少量飲酒で発症リスクが少し低く、多量飲酒でリスクが上昇する傾向があります。カロリーオーバーだけでなく、アルコール性肝臓病あるいはすい臓のダメージでも糖尿病が発症・症状が悪化します。多量飲酒者では、食事療法・運動療法ともにおろそかになりやすく、糖尿病のコントロールも不良になりやすいのが一般的です。

 次回は脳卒中の第6のリスク、脂質異常症についてお話しします。