脳卒中について。その52 【脳卒中予防十か条の9】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 令和元年の統計では日本人男性の33・0%、女性の22・3%が肥満者で、特に40~50歳代の男性に多いようです。今回は肥満症の治療についてお話しします。

 1.肥満症の治療の目的

 前号でもお話ししたように、単なる太りすぎ(肥満)と肥満症は区別が必要です。肥満に伴う健康を脅かす合併症がある場合や健康障害を起こすリスクが高い場合には肥満症という病気になります。その治療の目的は、他の疾患の治療と同様に、寿命や健康寿命の延伸に加え、肥満に起因する健康障害の予防あるいは、生活の質(QOL)が肥満によって損なわれるのを予防することです()。

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 肥満症の治療の原則は何といっても減量になります。以前の調査で、肥満症に当たる人に半年間減量指導を行い、血圧、血糖、尿酸、脂質、肝機能の変化を見たところ、体重減少の割合が大きいほど、各疾患の改善度が大きく見られました。体重のわずか3%を減量することで健康障害が改善することがわかっていますので、3%以上減量することを目標にします。

 3%というと簡単に思えますが、例えば、体重80㎏の方は3%ですと、 2・4㎏減量することになります。半年間であれば決して無理なダイエットにはならないかもしれません。BMIが35以上の高度肥満症の方は、合併する健康障害の状態により減量目標は変わりますが、5~10%を減量目標にします。ただし、目標が達成されても健康障害によってはさらに減量が必要になることもあります。肥満症の方は健康障害を複数合併していることも多いのが特徴的で、その原因は内臓脂肪の過剰蓄積であることは判明しています。ですから、内臓脂肪を減らせば、内臓脂肪蓄積による複数の健康障害の改善に役に立ちます。

 2.肥満症治療指針による治療目標

 肥満症と診断された場合は体重3%、高度肥満症の場合には5~10%を減量目標に設定しますが、その具体的方法は、まず食事療法、運動療法、行動療法になります。目標達成できなかった場合には、肥満症治療食の強化や薬物療法、外科治療の導入を考慮します。

 薬物療法に関しては、各薬剤の特徴を良く理解して、作用機序、有効性、安全性を総合的に判断して実施することになります。BMIが35以下であっても、合併する健康障害の種類や程度により、実施することもあります。肥満症患者は、いったん減量に成功し、健康障害の改善がみられても、リバウンドしやすく再悪化しやすいという特徴があります。合併症の改善には、リバウンドを伴わない継続した減量が最も有効です。

 食事療法ですが、体重、内臓脂肪を減らし、新たな健康障害の発生を予防したり、あるいは改善したりする上では最も基本になるものです。以前も食事療法については何度か触れましたので、ここではあまり詳しくは触れませんが、減量のためには摂取エネルギー量を制限することが最も有効で確立された治療法です。もちろん、摂取エネルギーが消費エネルギー量よりも少なくなるようにしなければなりません。

 わが国では、肥満症の人が目標とする1日の摂取エネルギーは、25㎉×目標体重(㎏)以下、高度肥満症の場合は20~25㎉×目標体重(㎏)以下となっています。それでも減量できない場合には、さらに低い摂取エネルギー量を再設定します。ただし、高齢者は極端な低エネルギー食は推奨されていません。

 栄養のバランスでいえば、摂取エネルギーのうち、炭水化物が50~65%、タンパク質が13~20%、脂質で20~30%が標準といわれています。糖質、脂質の摂取制限が短期間の体重減少には効果があるといわれていますが、長期的な有効性は示されていません。そのため年齢や合併する健康障害、身体活動量、嗜好などの状況に応じた柔軟な対応が必要になります。糖質を減らして、脂質量を変えず、高タンパク食摂取群(エネルギー比25%)と低タンパク食摂取群(エネルギー比15%)を比較した調査では、高タンパク食摂取群では摂食に伴う熱産生量が多いことや満腹感が得やすいことから、長期の体重減少維持に効果があると報告されています。さらに必須アミノ酸を含むタンパク質やビタミン、ミネラルの十分な摂取が必要です。

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次回は肥満症の運動療法と行動療法についてお話しします。