【子育て応援隊】子連れ水害防災 「逃げどき」しっかり判断

 

 梅雨入りし、これから迎える台風シーズン。毎年どこかで必ず起こる水害は、人ごとではありません。大人でさえ過酷な被災体験を子どもにさせたくない―。災害時に子どもの安全を守るため、今できること、すべきことを一緒に考えましょう。

 被災経験生かしチャートを作成

 大雨による災害発生が予想されているけど、どのタイミングで避難すればいい? 避難した方がいいのか、家にいた方がいいのか、どっち?

 そんな疑問に答え、「逃げどき」を簡単に判定できる「水害逃げどきチャート」があります。作成したのは福島市のイラストレーターico.(イコ、本名・物江麻衣子)さん。イコさんは、東日本大震災と東日本台風(台風19号)で被災した体験と、昨年取得した防災士の資格を生かし、災害から身を守ることをテーマにしたイラストや漫画を発信しています。2歳の子どものママでもあります。

 「逃げどきチャート」は、避難の判断基準となる5段階の「警戒レベル」や、全国の自治体のハザードマップを参考に作られました。災害研究の専門家の助言も取り入れています。

水害逃げどきチャート

 イコさんは2019年10月の東日本台風で、福島市の自宅マンション(1階)が浸水。5階に避難し、翌朝ボートで救助されました。「ハザードマップで浸水区域だったので危ないとは思っていたが、どのタイミングで避難すればいいか分からなかった」と言います。

 避難勧告を告げる車が来ても雨の音で聞こえず、テレビの情報だけでは細かい地域の状況は把握できませんでした。玄関前まで水が来ていることに気付き、垂直避難して難を逃れました。当時は夫と2人暮らしでしたが、イコさんは「もし子どもがいて、自分も寝ていたら死んでいたかもしれない。救助まで半日かかったので、子どもの寒さをしのいだり、ご飯を食べさせたりすることもできなかったはず。大人だから耐えられたけど、子どもがいたらと思うとぞっとします」と振り返ります。

 安全なうちに避難しておく

 そんな経験をしたからこそ、チャートはハザードマップの確認を前提にし、「逃げどき」に迷わないようにしました。イコさんは「浸水エリアは高齢者等避難(警戒レベル3)や避難指示(同4)を待たず、安全に移動できるうちに避難してほしい。備蓄や防災食も大切ですが、生き残らないとそれらは使えません。ハザードマップの確認など、まずは生き残るための備えをしてほしい」と、強調します。

 日常に近づけるアイテム用意

避難グッズ

 イコさんは、避難グッズを入れた非常用持ち出しリュックを準備し、常に玄関に置いています。

 1~2日の避難を想定し、中身は大人2人、2歳の子ども1人分の食料や水、着替え、歯ブラシ、タオル、子ども用オムツ、モバイルバッテリー、生理用品、携帯トイレなど。犬1匹分のえさも入れています。重さは約8キロ。「これくらいが子どもを連れて持って歩ける限度。車で避難できると限らないので厳選した方がいいです」

 昨年9月の台風では子どもと2人で福島市の福祉避難所に1泊する経験をしました。慣れない環境からか、夜に子どもが何度も泣き、周りへの迷惑が気になってどっと疲れたそう。「命を守るために早めの避難は大切。ただ、小さな子どもを連れての避難所生活は親子ともにストレスになり得る。できるだけ子どもが『日常』でいられるよう、お気に入りのおもちゃや、機嫌が良くなるアイテムを持って行くといいです」と話しています。


イコさん ico.(イコ) 宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区出身。東北芸工大卒。グラフィックデザイナーとして勤務後、フリーのイラストレーターに。企業広告のイラストや雑誌の挿絵を手がける。22年から被災体験や防災知識を漫画やイラストで発信。37歳。

 役立つ知識、すごろくに

 イコさんは、自身の防災イラストや漫画を集めたインターネットサイト「防災ポートフォリオ」を開設しています。「逃げどきチャート」をはじめ、災害時に想定される危険や役立つ知識を「すごろく」風にイラストで紹介する「被災シミュレーション もしもすごろく」(風水害編、地震編、津波編)、大震災や東日本台風の被災体験漫画なども公開されており、無料でダウンロードできます。

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 郡山地方消防本部に聞きました

 歩ける水深、膝下が限度

 郡山、田村、小野、三春の4市町を管轄する郡山地方消防本部で広報担当の吉田武司さん、消防水防係の伊藤健一さんに、水害による避難時の注意点や、早期避難、事前の備えの大切さについて聞きました。

 Q 避難する際の注意点は?

 「車で避難する際は、冠水した道路を通らないこと。水深がタイヤの半分ほどでマフラーが水に漬かってエンジンが止まり、車が動かなくなります。電動の窓は開かず、ドアも水圧で開かないため、脱出できません。水が浅いと思って進んだら深くて動けなくなった―というケースが多いため、冠水していたら通らないでください。冠水しやすい道や迂回(うかい)路を事前に確認しておきましょう」

 Q 子どもと歩くときは?

 「子どもに自転車用などの水が抜けるヘルメットをかぶせます。長靴は水が入ると歩けなくなるので、水はけのいいスニーカーを選んでください。歩ける水深は、大人も子どもも膝下が限度。大雨の中の子連れの避難は大人だけと比べて倍以上の時間がかかります。子どもを危険にさらさないため、早めの避難が重要です」

 Q 避難が遅れたらどうなる?

 「大きな災害ほど救助を求める119番通報が殺到して電話がつながらず、つながっても救助までに時間がかかります。東日本台風時、管内では1日で平均の約15倍となる千件以上の通報がありました。浸水した家で体がぬれたまま長時間救助を待って低体温症となり、病院に搬送された人が少なくありませんでした。真夏でも低体温症になります」

 Q 防災のポイントは?

 「〈1〉ハザードマップや家の周りの危険を確認するなど、事前に備える〈2〉台風の接近や大雨情報への関心を高める〈3〉避難する―の3点。避難が差し迫った時にハザードマップを確認しても冷静な判断や行動はできません。行政が発生中の災害の全容を正確に把握し対応することは不可能。自分で情報を得て、判断することが大切。心がけ一つで被害を減らせます」

 Q 子どもいる世帯どうする?

 「子どもは大人と同じようには動けません。大人なら危険でないことも、子どもにとっては命の危険になり得ます。一方、年齢によっては子ども自身ができることをすることで、大人の助けになることもあります。災害時の約束事を子どもと決めるなど、家族で話し合ってください。避難所での生活は親子ともに大きなストレスになります。天候が悪化する前に、避難場所として"遊び感覚"で行けるような親戚や友人の家があるといいですね」