【子育て応援隊】子育て支援事業 もっと人に頼っていい

 

 子育てで困った! 誰か助けて―。ファミリーサポート(ファミサポ)やホームスタート、一時預かりなど、県内の各市町村で実施されている子育て支援事業は、そんな時にママやパパの助けになってくれる制度です。誰かに頼ることは悪いことではありません。子育てはもっと人に、地域に頼っていいんです。今回は保護者を支える各種支援事業を紹介します。

子育て支援チャート

 ◆ホームスタート 地域の先輩ママ助っ人

ホームスタート事業写真=自宅でオーガナイザー、ビジターと顔合わせする高久さん(左から2人目)

 家庭訪問型のボランティア

 次男の3・4カ月健診。「イヤイヤ期」まっただ中の2歳の長男を連れて行くのはしんどい。そういえば、前に利用したファミリーサポートの担当者に教えてもらったホームスタートを使えば、スタッフが会場に同行し長男を見ていてくれるかも―。

 会津若松市の高久真悠さん(31)は、以前住んでいた須賀川市で、次男の健診の際に初めてホームスタートを利用しました。

 ホームスタートは家庭訪問型の子育て支援ボランティア活動です。「ホームビジター(ビジター)」と呼ばれる研修を受けた地域の先輩ママが利用者宅を訪問し、話を聞いたり、家事・育児を手伝ったりします。外出先に同行して親が用事を済ませている間に子どもの面倒をみたり、一緒に遊んだり、育児経験を基に、地域の子育て情報も提供できます。利用目安は、1度の利用申し込みにつき週1回、2時間程度で4回ほど。主に未就学児が対象で、利用は無料です。県内では14市町で行われています。

 高久さんは次男の健診以降、子連れでの買い物や病院、市役所に行く際などにホームスタートを利用してきました。育児で心に余裕がなくなった時は、自宅でビジターとただお茶を飲みながら、話を聞いてもらったこともありました。今年5月に会津若松市に転居した後は、同市でホームスタート事業を展開するNPO法人ファミリー・サポート・あいづにも利用を申し込みました。

 利用するには、実施団体への申し込みが必要です。受け付け後、調整役の「オーガナイザー」が利用希望者の自宅を訪れ活動内容を相談。その後オーガナイザーと、担当ビジターが顔合わせのため利用希望者宅を訪問して日程や内容を確認し、次回から支援活動を行います。

 話聞いてもらい心が安まる

 7月上旬、高久さんの自宅をオーガナイザーとビジターが顔合わせのため訪れました。子どもは長男が3歳、次男が9カ月になりました。

 「夫が仕事の時は一人で子ども2人をみているので常にいっぱいいっぱい。最近、子どもを怒ってばかりなんです」

 「それは仕方ないよね」

 高久さんの言葉にビジターが優しく応じます。高久さんは今後、買い物や子どもの予防接種時の同行、支援センターへの案内などをしてもらう予定です。「1、2時間でも話を聞いてもらったり、子どもから目を離して家事ができるだけで心が休まる。利用してみて、子育てはもっと人に頼っていいんだと気付きました。どんな人が来るのか不安で最初は利用をためらっていたけど、もっと早く使っていれば良かったと今では思います」

 余裕がないと育児楽しめない

 ファミリー・サポート・あいづでは昨年度、27世帯(対象の子どもは46人)を計286回訪問しました。同団体では利用は原則4回ですが、延長ができます。12人ほどがビジターとして利用者を支えています。主に、2、3人目を出産して「手が足りない」という母親から育休や産休中、学校の長期休暇中の依頼が多いといいます。

 同団体はファミリーサポート事業にも取り組んでいて、昨年の利用件数は約2700件。障害がある子どもの子育て経験のあるスタッフが多いことなどから、支援学校や施設への送迎が利用の半数を占めます。副理事長の安藤美幸さん(52)は「一人で悩まず、気軽に使ってほしい。余裕がないと子育ては楽しめません。第三者に話をすることで楽になったり、育児に生かせる気付きがあるはずです」と話します。

 ◆ファミサポ 子どもの送迎や預かり

緊サポの事務所写真=緊サポの事務所を訪れた和香恵さん(左)、香純美ちゃん(中)と、出迎えた小池さん

 ファミサポは、育児の援助を受けたい人と、支援したい人がそれぞれ会員になり、子どもを預け・預かる仕組みです。県内では各地の約30団体が実施しています。

 独自プランでニーズに対応

 福島市東中央の住宅街の一角にある事務所。1歳7カ月の岩楯香純美(かすみ)ちゃんが、母和香恵さん(42)と訪れました。香純美ちゃんはなじみの預かり会員、小池京子さん(69)を見つけるとにっこり。

 「香純美ちゃん、きょうはアンパンマンのおもちゃで遊んでみようか」

 小池さんが声をかけ、慣れた手つきで抱っこすると、事務所内の託児室に向かいます。

 この事務所を運営するNPO法人こども緊急サポートふくしま(緊サポ)は市のファミリーサポート事業のうち、「病児・緊急対応強化事業」を受託しています。事業内容は病児の預かりや当日の急な預かり、早朝・深夜の預かりなど。独自の支援プランも設け、子どもの定期的な預かりや送迎、家事支援なども行っています。

 和香恵さんは香純美ちゃんをはじめ、小学生と幼稚園児合わせて5人の子どもを育てています。医師の夫は仕事が忙しい中でも積極的に育児をしていますが、それでも手が足りません。緊サポの独自プランを利用し、多い時は週6回、子どもの習いごとの送迎や、買い物、食事作りなどを小池さんに手伝ってもらっています。「子どもたちには『(担当の)小池さんがいるからママたちはあなたたちを育てられるんだよ』と言っているほど。緊サポのおかげでわが家は回っています」

 急な体調不良時 助けられた

 福島大行政政策学類准教授の阪本尚文さん(38)も利用者の一人です。小学生と幼稚園の子どもがおり、夫婦ともに仕事が休めない際に平均月1、2回ほど利用。数日前に電話で依頼し、緊サポの託児室に預けたり、預かり会員に自宅に来てもらったりしています。妻はピアノ講師でパート勤務していますが、保育施設を利用できる要件を満たさず、お互いの実家も県外にあるため緊サポに頼ってきました。

 妻の体調不良で当日朝に急きょ連絡し、対応できる預かり会員を見つけてもらったこともありました。「もし緊サポがなかったら、仕事の予定を変えたり、諦めるしかなかった。助けられています」と阪本さんは話します。

 細かいことまで聞き取って共有

 ファミサポを利用するには説明会の受講や、実施団体などへの事前登録が必要です。緊サポは事務所で登録を受け付けています。緊サポの会員登録では緊急連絡先をはじめ、子どもの障害やアレルギーの有無、体調、性格、家庭での決まり事など細かいことまで聞き取り、預かり会員と共有。預かり会員との顔合わせが済めば、利用したい時に電話やメールで事務局に連絡します。事務局が当日対応できる預かり会員を調整します。緊サポでは50~60代の子育て経験者を中心に約40人の預かり会員が活動しています。

 利用料は市委託プランが年齢に応じて1時間700~900円。福島市民以外も利用できる独自プランは全年齢で1時間900円、他に入会金と年会費がかかります。

 緊サポには約400人が利用登録し、利用は年間2千件以上。早朝出勤や夜勤など親の働き方に合わせた依頼も多いといいます。

 緊サポの佐藤由紀子理事長(70)は「私たちの目的は子どもを預かることで親を支援すること。頼れる人がなく、孤立を感じている親が多い。余裕がなくて行き詰まると、子どもをかわいいと思えなくなってしまう。それは『休んで』という警告。人に頼ることは悪いことじゃない。『助けて』と言っていいんです」と強調します。

 ただ、利用ニーズが増える一方、預かり会員は足りません。「社会貢献だと思って地域の人に一緒に子育てしてもらいたい」と願っています。