【子育て応援隊】昔と違う「孫育て」 今どきの常識、知ること大切

 
リビングで談笑する(左から)彩子さん、孝子さんら一家

 きょうは「敬老の日」。子育て世代の共働き家庭が多くなり、積極的に子育てをサポートする祖父母世代が増えています。「祖父母の協力なしには子育てできない」と子育て世代から感謝される一方で、昔と今の子育て常識の違いから、世代間で思わぬトラブルになることもあるようです。今回は、祖父母が子育てを支える「孫育て」の事例や、両世代のすれ違いを防ぐためのヒントを紹介します。

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 「娘とは毎日のようにけんか。もめながらも、互いに言いたいことはちゃんと言う『モメニケーション』です(笑)。でも孫の子育ての主体は娘夫婦だから、深入りし過ぎないように気を付けています」

 福島市の林孝子(こうこ)さん(63)は、自営業の夫、共働きの長女夫婦、小学6年と同3年、幼稚園年中の孫3人の3世代7人で暮らしています。孝子さんの平日は、朝、小学生の琴音さん(11)、篤さん(9)と一緒に自宅を出て、児童たちを見守る「旗振り当番」のボランティアとして登校班に同行。午後は幼稚園から帰ってきた巧ちゃん(5)の面倒を見ながら、帰宅した小学生2人の宿題に付き合い、その後、車を運転して習い事に連れて行く。自宅に戻って夕食を作り、一家全員そろってから食べる―。これが日課です。

 指摘されたら素直に応じる

 孝子さんは、長女高橋彩子(さいこ)さん(38)が第1子出産後に仕事復帰するのに合わせて同居を開始。保育所に通っていない孫の世話が本格的になると、仕事を辞めました。

 赤ちゃんに大人がかみ砕いた食べ物を与えない、厚着させない、離乳食は便利な市販品もある―。「昔の子育て常識が時代に合わないことは分かっているので、自分で勉強しないと」と孝子さんは"今どきの子育て"を知ることの大切さを感じています。「それ今は違うよ」と彩子さんから指摘されると素直に応じ、新聞やテレビからも情報を得ています。「便利な育児グッズは私の方が詳しくなり、娘に教えたくらい」と笑います。

 できないことは無理せず断る

 彩子さん夫妻は同居を機に、子どもを世話する孝子さんに毎月謝礼を払うことを決めました。2世帯住宅への増築費用を負担し、子どもの送迎で孝子さんが使うために安全装備付きの車も購入。彩子さんも孝子さんもこれらは「当たり前」のことだと考えています。

 彩子さんは「私たちがお金を稼ぎ、両親に子どもの世話をしてもらって対価を支払う。わだかまりが残らないように『お金で解決』も大切です。ただ、頼り過ぎないよう注意しています」と話します。まずは自分たち夫婦でできることを話し合い、どうしてもできない時に、孝子さんが対応できそうな範囲でお願いしています。

 孝子さんは「私の生活は孫の世話だけじゃない。やれることはやるけど、できないことは断る。余力をつくるために無理をしない、ストレスをためないよう言いたいことは言う―が孫育てが長続きするコツ」と説明します。「日々成長する孫たちを見ていると、一緒に成長している気持ちになれる。孫育ては面白いです」

子育ての今と昔

 「孫育て・ニッポン」理事長 棒田明子さん

 "いい塩梅"対話で探って

 子育てをサポートする祖父母の言動が、思いもよらず子育て世代を傷つけてしまうことがあります。一方、祖父母世代は「孫育て」にどこまで踏み込んでいいか悩むことも。祖父母世代に「今の子育て」を伝え、両者が理解し合うための活動に取り組むNPO法人「孫育て・ニッポン」(東京都)理事長の棒田明子さん(55)に、子育てに関する"常識の違い"が生むトラブルや、世代間のすれ違いを防ぐためのヒントを聞きました。

 Q どんなトラブルがある?

 「よく聞くのが無痛分娩(ぶんべん)や帝王切開への無理解、白湯・果汁を飲ませる、抱っこしすぎると『抱き癖』がつくなど、祖父母が子育てしていた頃の知識を押し付けてしまうこと。アレルギーへの認識不足や、義務化されている車のチャイルドシート、自転車のヘルメット着用を守らないなど、子どもの命に関わるケースもあります。祖父母が子育ての知識をアップデート(更新)していないために、悪気はないのに子育て世代を傷つけ、けんかになったり、最悪の場合、連絡を一切絶つ『絶縁状態』になった例もあります」

 Q うまく付き合うには?

 「互いの"常識"が違うのだから、そのギャップ(差)を埋めることは難しい。でも知識を持つことで相手を理解することはできます。祖父母世代が『今の子育て』を知ること、そして子育て世代と、どうしてほしいのか、してほしくないのかなど対話することが大切。孫育て・ニッポンでは、両世代の声を基に『祖父母とのおつきあい10か条』『孫育て10か条』を作成しています。『孫育て10か条』で一番重要なのが『育児の主役はパパとママ、祖父母はサポーター』というもの。父母がやりたいと考える子育てができるようサポートすることが祖父母の役割であり、父母が望んでいないことを祖父母が勝手にやってもありがたがられません。

 一方、『祖父母とのおつきあい10か条』では、『祖父母を頼りすぎない』『お金をもらったら口と手がついてくる』『孫の扱いは決して平等にはならない』は特に心に留めてもらいたい項目です」

 Q 注意するポイントは?

 「同居の場合は、しつけや食事など子どもの生活ルールを共有すること。カッチリ決め過ぎず、祖父母が無理せずに対応できるよう適宜見直すことが大切です。近居では祖父母の手の出し過ぎ、父母の頼り過ぎに注意。良い関係を保つには、コミュニケーションを取って互いの"いい塩梅(あんばい)"を探ることが必要です。遠方に住む場合は、たまにしか会えない孫を祖父母が甘やかし、父母が快く思わないケースが多い。でも、その数日だけで子どものしつけが台無しになることはないので大目に見て。父母が絶対に嫌だと思うことは、事前に伝えましょう。また、祖父母が孫に言う『パパとママには内緒だよ』は禁句! 筒抜けです。勝手にお金や物を渡すのはトラブルの元なので、事前に父母に相談しましょう」

 Q すれ違い防ぐ秘けつは?

 「親子、家族だからこそ、『言わなくても分かるでしょ』と思いがちですが、それがトラブルを大きくする原因になります。子ども・孫に健やかに育ってほしいという願いは同じ。互いにきちんと言葉で要望を伝える、聞くことが重要です。特に祖父母側は『海外留学生との異文化交流』と思って子や孫に接しましょう。違う文化(今の子育て)を知り、理解しようとするはず。子どもには祖父母の愛情を受ける権利があります。父母と祖父母の関係が悪く交流がなくなることで、その権利を子どもから取り上げてしまうことになる。どんなに関係が悪くても、子どもが小学生になった時に一人で祖父母の家に遊びに行けるくらいの関係性は残してほしいですね」

 ぼうだ・あきこ 千葉県出身。横浜市在住。2011年、NPO法人孫育て・ニッポンを設立。にっぽんネウボラネットワーク研究所副代表、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事などを務める。28歳と23歳の息子、2歳の孫がいる。

子育て10か条

 郡山市が「孫休暇」

 郡山市は2月、職員向けの「孫休暇」の制度を設けました。これまで男性(父)のみ対象だった出産補助(最大3日)・育児参加休暇(出生から1年経過する日まで最大5日)を祖父母にも拡大し、出産の付き添いや孫の世話などに利用できるようにしました。

 8月までの取得は男女30人、延べ109件です。市こども部の相楽靖久部長は5月に育児参加休暇を取得し、長女と孫の帰省を手伝いました。帰省中は娘の方針を尊重しながら、孫にミルクを与えたり、散歩に連れ出したりと世話をしました。10月にも同休暇を取得する予定といいます。「孫休暇が事業所にも波及して、祖父母が孫の世話で休みやすい、子育てしやすい市にしていきたい」と、制度が広がることを期待しています。

 「孫育て」冊子で紹介

 郡山市や福島市など県内の複数の自治体は、孫育ての要点をまとめた冊子を作って配布したり、オンラインで公開したりしています。