【子育て応援隊】男性の参加、「当たり前」に

 
子どもたちと遊ぶ古小高さん(中央)

 育児休業制度が変わり、男性も育休を取りやすくなりました。産後のママの一番の頼りはパパです。今回は「育パパ」をテーマに、育休を取得したパパの体験談や支援制度を紹介。男性が家事・育児に参加することの大切さを専門家に聞きました。

 次男の育休取得、家事全般を担う

 朝6時、起床して朝食を作り、小学1年の長男の登校準備をして送り出すと、掃除や洗濯をこなし、買い出しから帰ると昼食。午後は長男を小学校まで迎えに行き、帰宅後は長男と遊びつつ家事、夕食作り―。

 南相馬市の特別養護老人ホーム生活相談員、古小高(こおたか)資(たすく)さん(36)の育児休業中の一日のスケジュールです。古小高さんは現在8カ月の次男瑞(るい)ちゃんが生まれた昨年4月30日から1カ月間、育休を取得。思うように動けない産後の体で新生児のお世話に追われる妻加奈子さん(38)に代わり、一日3食の食事づくりから家事全般、長男の世話まで一手に引き受けました。

 長男蓮君(7)の時は育休を取らず、次男が生まれるまで家事育児の多くは加奈子さんが担っていました。次男の育休を取ると、古小高さんの生活は一変。特に食事作りは初挑戦で、動画配信サイトを見て学び、管理栄養士である加奈子さんから太鼓判を押される腕前になりました。

 家族との時間増え料理も上達

 長男の誕生時は「男性が育休を取れると思っていなかった」と、職場に相談すらしなかったという古小高さん。次男の出産時期が長男の小学校入学に重なるため、これまで以上に家族へのサポートが必要と感じる中、上司の女性に「育休は取るんだよね?」と声をかけられたこと、長男の頃より役職が上がり職場に育休取得の希望を伝えやすくなったことで、次男誕生後は育休を取ることにしました。

 ただ、育休中も仕事のことが気がかりだったといいます。出産が予定日より3週間早まったことで仕事の引き継ぎが十分にできず、育休中に出勤することも想定していました。しかし、実際は相談の電話が一度あっただけ。古小高さんは「自分がいなくても何とかなるんだと、逆に寂しい気持ちになりました」と笑います。

 パパが育休を取得してくれたことに、加奈子さんは「家事育児はもちろん、赤ちゃんが夜中に泣いてる時に一緒に起きてくれたり、赤ちゃんに少し変化があるだけで心配してしまう私に『大丈夫だよ』と言ってくれたり、とても心強かったです」と感謝しています。古小高さんは「育休中はとても楽しく、おかげで家族との時間が増え、料理もできるようになりました。子育ては仕事より大変。パパはママの負担を減らせる人。男性が当たり前に育休を取れる社会になってほしい」と願っています。

育休中のパパのスケジュール

 上司「仕事は私たちに任せて」

 古小高さんの勤務先である特別養護老人ホーム万葉園(南相馬市)は、古小高さんの育休取得を後押しました。「管理職に子育て経験者の女性が多く、古小高さんに育休を取ってもらおうと積極的に応援していました」と副施設長の松岡裕美さん。古小高さんの育休中、本来なら古小高さんに頼りたい業務でも「『私たちに任せとけ』という思いで、職員が協力してフォローできました」と振り返ります。

 同施設では古小高さんが育休を取ったことで、他の男性職員も育休が取りやすくなったそうです。松岡さんは「男性が育休を取りやすくするには職場に前例があることが大切。企業としてもその実績をアピールできます」と、男性の育休取得が増えることの必要性を感じています。

 南相馬市が奨励金、職場には補助金

 南相馬市は集中的な少子化対策の一環として、子育て支援に力を入れています。その一つが「はぐパパ応援育休取得促進奨励金」。市内に住所があり、企業などで働く(雇用保険の被保険者)男性を対象に、7日以上の育休取得で最大20万円を支給する事業です。

 子どもが1歳2カ月になるまでに、育休取得日数が連続する7日以上1カ月未満で5万円、連続する1カ月以上または分割取得した日数が合計30日以上で20万円を支給します。市の事業があることで、男性が職場に育休取得を申し出やすくしたり、奨励金の支給で経済的な不安を減らしたりし、育休取得を促すことが目的です。昨年度から始まり、初年度は29人(5万円7人、20万円22人)、本年度(昨年11月末時点)は44人(5万円12人、20万円32人)の申請がありました。

 さらに、7日以上の育休を取得した男性が勤務する市内の中小企業にも10万円の補助金を支給しています。本年度(1月15日時点)は5社から5件の申請がありました。

 同市こども家庭課こども企画係の担当者は「以前は男性が育休取得した前例のない企業が多かったですが、育児・介護休業法の改正や市の支援事業を通して『男性も育休を取れる』という意識の変化を感じています」と話します。「職場に迷惑がかかる、言いづらいと育休取得をためらう男性も多いですが、取得者にアンケートを取った結果、ほとんどの人が『取ってよかった』『他の男性にも取得を勧めたい』と回答しました。ぜひ男性も育休を取ってほしいです」と、呼びかけています。

 産後パパ育休って?

 男性の新しい育児休業制度で、妻の産後休業期間中に夫が取得できる「男性版産休」です。女性の産休期間は子どもの誕生から8週間で、その間に男性も最大4週間休業できます。2回まで分割して取れるなど、柔軟に利用できるのが特徴です。

 通常の育休は原則1カ月前までに勤務先へ取得を申し出る必要がありますが、産後パパ育休は2週間前までで構いません。労使の合意があれば、休業中も限定的に働けます。休業中は雇用保険から育児休業給付金が支給され、社会保険料免除と合わせると手取り収入の約8割が得られます。

 これらは昨年度から段階的に施行された改正育児・介護休業法の一環です。ほかに、子どもが1歳になるまでに取得できる通常の育休が、夫婦それぞれ2回に分けて取れるようにもなりました。夫婦が交互に取るなど、家庭や仕事の状況に応じて使えます。

育休取得の例

 県内男性の育休取得率20.4%

 県内の男性の育休取得率は、最新のデータ(2021年度出産、22年7月末までに育休開始・申請)で20.4%、平均取得日数は27.2日です。一方、県内の女性の育休取得率は97.1%、平均取得日数は297.7日でした。

 県が2000年に調査を開始した時の男性育休取得率0.1%と比べると、取得者は増えているものの、女性とは大きな差があります。県は本年度、男性の育休取得の促進に向けた奨励金制度を拡充。県次世代育成支援企業認証を取得(予定も含む)した県内企業を対象に、男性従業員が7日間以上連続で育休を取得した場合には10万円、1カ月以上で20万円、3カ月以上で30万円を交付しています。本年度(1月15日時点)は25件の申請がありました。

 「見える化」で産後イメージ

 各家庭に合った家事や育児を考えてもらおうと、県や県青少年育成・男女共生推進機構は、昨年から今年にかけ県内6会場で、父親になる男性ら向けに「ふくしま育パパセミナー」を開きました。セミナーのメインは、男性の家事・育児参加促進を目指し活動する「Kaziプロジェクト(カジプロジェクト)」(仙台市)代表の木村秀則さんの講義とワークショップです。

 木村さんは仕事中心の生活を送っていましたが、家事と2児の育児を担っていた看護師の妻が体調を崩したことを機に自分の働き方を見直し、家庭に関わる時間を増やしました。「私は『大黒柱になれ』と育てられ、妻も『女性だから家のことをしなければ』と思っていました。しかし妻が倒れたことをきっかけに、妻や職場とよく話をしました」と振り返ります。

 こうした経験から、セミナーでは参加者にパートナーや職場との対話の大切さを伝えています。夫婦の対話のきっかけとして活用しているのが、独自開発した家事・育児の「見える化シート」を使ったシミュレーション。「掃除機をかける」「保育園からの呼び出し対応」「こどもの食事補助」「話に共感しねぎらう」など厳選した25項目について、誰が担当するかを参加者と配偶者が話し合いながら項目を分けます。

 郡山会場では、妻の担務が大多数のペアもあれば、ほぼ同じぐらいのペアもありました。ある男性は「育児で何をするのかが漠然としていたが、明確になり課題が見えた。仕事で帰宅が遅いので、育休について職場と相談し働き方を検討したい」と感想を話しました。

 木村さんは「普段のコミュニケーションを今まで以上に取る、産後を想像して自分たちはどうしたいかを話し合うことが大切。男性も育休や時短、残業なし勤務などについて職場と対話をしてください」と助言。「たくさん話し合って家族の形をつくって。心の余裕と思いやりで、楽しい育児をしてください」とエールを送りました。

見える化シートある参加者夫婦の「見える化シート」

 少しずつ環境変えていく

木村秀則さん木村秀則さん

 カジプロジェクト代表の木村秀則さんに、家事・育児の夫婦分担の在り方や男性の育休取得促進に必要なことについて聞きました。

 Q,分担がうまくいかない
 「パパの親世代や周りの先輩などに『家事・育児は女性の仕事』という意識がある人が多いと、協力しない姿勢が強いようです。『男性も家事に参加する』という考えが当たり前になるために、積極的に取り組んでいる人がSNSなどで紹介する、育休を取る、友人に話すなど情報発信していくと、少しずつ環境が変わっていくはず。時間がかかりますが、環境づくりが大切です」

 Q,なぜ分担が必要?
 「誰かに負担が偏っていると、その人が体調を崩したり精神的に参ったりすることにつながります。家族の心身の健康を保つために、みんなで協力していくことが大事です」

 Q,多忙だった時期は?
 「子どもともっと関わりたいと思っていましたが、『もっと働かなければ』という気持ちもあり、しょうがないかな、という感じ。周りも育児をあまりしてこなかった人が多かったので『これが普通だ』と。妻が倒れて会社と対話し、役職を変えず負担を減らしてもらいました。しかし理解がある職場ばかりではなく、対応できないと言われ転職したケースもあります。なので、生き方のために職を変えるという選択肢もあるのではないでしょうか」

 Q,男性育休なぜ必要?
 「一番は産後の妻の心と体のケア。また、早期に育児スキルを身に付けることで家事分担がしやすくなります。早いうちに育児に関わらないと、妻の育児スキルだけがどんどん上がっていく。遅れて参加すると『そんなこともできないの?』と言われ、やりにくくなっていきます」

 Q,職場では何が大切?
 「早め早めに職場に相談することと、引き継ぎを丁寧にすること。特に男性は事例が少なく会社も対応が分からないので、丁寧にやっておかないと復帰後の負担が大きくなるかもしれません」

 Q,雇用側はどうする?
 「先進事例を参考にしたり、労働局に確認したりしてよく知ることです。大学生の意識調査で、育休取得希望の男子学生は9割以上でした。育休を取りやすいということは働きやすさに直結します。『子育てへの協力体制があるかどうかがその企業への応募に関わるか』、と聞いたら8割以上が『はい』と答えました。ですから、企業は子育て支援の体制をつくりながら、それを発信していかないと、採用が難しくなります」