【エールのB面】美術デザイナー・日高一平さん 空間が雄弁に物語る

 

 いよいよ本編の放送再開が決定した朝ドラ「エール」。物語後半の展開に期待は高まるばかり。ところで、舞台となる東京編は昭和初期の時代設定となっており、当時の雰囲気が感じられる美術セットも注目ポイントの一つだ。セットデザインを担当している美術デザイナーの日高一平チーフディレクターに、主人公・裕一(窪田正孝さん)の住まいや喫茶バンブー、コロンブスレコードの見どころを聞いた。

 裕一の住まい

 コンセプトは「家族のつながり」です。裕一は職業柄、自宅の仕事場にこもりがちで、音(二階堂ふみさん)は心配しても邪魔になるので頻繁にのぞきには行けません。そこで中庭を中心に各部屋を配置して、居間や寝室にいながら仕事場である書斎の方向をうかがうことができるようにしました。

 また外から帰ってきた裕一が書斎に行くまでに、玄関→居間→寝室を経由する必要があるので、必然的に家族と顔を合わせることになります。家族がそれぞれお互いの存在を意識し、支え合えるような家をイメージしてデザインしました。

 参考にしたのは、裕一のモデルである古関裕而さんの東京の住まいです。間取りなどは違いますが、外壁や調度などは実際のお宅を取材させていただき、当時の資料を参考にアレンジしています。

 特に仕事場は福島市の古関裕而記念館に再現されている書斎を参考に、卓上や部屋の調度品、仕事時のスタイル(最終的には三つの机を行き来し、同時並行で作曲作業をこなす)などを表現していますので注目してほしいです。

 喫茶バンブー

 コンセプトはその名の通り「竹」です。裕一と音に住まいを紹介した梶取保(野間口徹さん)と恵(仲里依紗さん)夫婦が経営する喫茶店。店名通り内装やカウンターなどのインテリア、装飾に至るまで竹の素材にこだわり、ふんだんに取り入れました。

 ただ、この時代は思っていたよりも街並みがカラフルであったことが取材や考証で分かりましたので、建物など和洋折衷を心掛け、バンブーも和風にならないよう注意しました。特に、注目してもらいたいのがステンドグラスとカウンター上の竹の照明です。両方とも既存のものではなくバンブーのためにデザインして作っています。

 ほかにも店内には竹にまつわる小物をはじめ、保と恵がそれぞれ集めてきたものが集積されています。裕一と音が訪れて一度で気に入り、それぞれの仕事、夢に悩む2人が愚痴を言ったり、相談に来たりと、頻繁に来店する居心地のよい喫茶店。「裏口を抜けるとすぐ古山家がある」という台本を膨らませ、お店と家の間にちょっとした広場のような空間を作りました。この空間でもさまざまな場面が展開されるので楽しみにしていただけたらうれしいです。

 コロンブスレコード

 注目ポイントは「作曲家たちが集うサロン」です。裕一が専属作曲家契約をするレコード会社。当時のレコード会社をモデルに東京の、しかも海外資本の会社ということを意識してデザインしました。

 特に注目してほしいのは、作曲家たちが集うサロン。これまでの福島や豊橋とは趣を変え、床や壁面に大理石やタイルをふんだんに使ってゴージャスな空間を作りました。「コロンブス」の名前にちなんで帆船模型を飾ったり、コンパスと帆船をモチーフにデザインしたロゴマークを配置しています。