【まち食堂物語】田舎食堂みっちゃん・南相馬市 真心の手料理をみんなに

 
日替わり定食を運ぶ山本さん。明るい笑顔が客の心を引き付ける(吉田義広撮影)

 運命変えた言葉

 気取らない家庭料理を求めて、今日も地域住民が丸テーブルを囲む。南相馬市原町区の静かな住宅街にある「田舎食堂みっちゃん」。山本美智子さん(66)が45年の主婦人生で培った多彩な献立が用意された、日替わり定食が人気の小さな食堂だ。

 古い中古住宅の居間を改修し3年前、地域の公会堂の一角から移転した。和やかな雰囲気の中で日々提供される唐揚げや焼き魚、手作りハンバーグ、炊き込みご飯。「どう、おいしい?」。まるで家族の一員のように、客と会話する山本さん。明るい笑顔が印象的だが、食堂を開く前は苦労の多い人生でもあった。

 同市小高区出身の山本さんは21歳で結婚し、3人の子どもをもうけた。夫の仕事の関係で九州を10年間転々とし、1987年に南相馬へ戻った。当時は料理好きの主婦に過ぎなかった。しかし2005年、夫が倒れ、半身不随に。山本さんは四つの仕事を掛け持ちするなど、突如として家計を支えるようになった。

 メインの仕事になったのは市社会福祉協議会のヘルパーで、利用者の自宅で料理や風呂など訪問介護をした。1日5~6軒、朝7時から夜7時まで身を粉にして働く日々。そんなある日、一人の利用者の家で運命を変える一言に出合った。

 「私のための料理じゃなくて、みんなのための料理を作って。あんたは小料理屋なんかが似合うよ。あんたならできる」

 その利用者は1人暮らしの高齢女性で、山本さんが振る舞う料理をいつも褒めてくれた。山本さんは既にヘルパー経験が10年となっていたが「家庭料理という好きな分野で生計を立てられるかもしれない」という新たな扉が開かれた。

 「あの言葉がなければ食堂を開くこともなかった。地元に密着した、人とのつながりを大切にしたお店を開けたらいいなと思った」
 山本さんは15年、子育ても一段落したことからヘルパーを辞め、飲食店経営に挑戦した。それが初代「田舎食堂」で、自宅近くの馬場公会堂の野菜直売所を改修しオープンした。地元の主婦5人が集まり手料理を提供する店は好評だったが、5周年の節目を迎えた20年3月に惜しまれつつ閉店した。

 住民からの善意

 その8カ月後、移転オープンしたのが現在の食堂で、山本さんが一人で店を切り盛りする。ご飯は客が自分でよそうセルフサービス方式で、ご飯、みそ汁、6種類の漬物、コーヒーはおかわり自由。定食全て600円という安さだ。低価格の理由は、使う野菜の8割を地域住民が無料で譲ってくれること。住民がくれた善意を大切に、大根の皮やホウレンソウのゆで汁をみそ汁のだしに使うなど、食品ロスの削減を心がけている。

 食堂はすっかり地域になじみ、住民の情報交換の場にもなった。「自分の家で作っているものを並べているだけ」と、お盆にたくさんの小鉢を並べていく山本さん。「このまま70歳まで続けられたらいいな」。主婦の夢をかなえた店で、これからも心が安らぐきっかけを与えてくれる、家庭の味を伝えていく。(坪倉淳子)

お店データ

230604machisyokudou2.jpg「田舎食堂みっちゃん」。のれんは得意の裁縫で手作りした

230604machisyokudou3.jpg【住所】南相馬市原町区陣ケ崎273の8

【電話】080・8219・5856

【営業時間】午前10時~午後3時

【定休日】水、日曜日

【主なメニュー】
▽日替わり定食(限定20食)=600円
▽うどん定食=600円
▽焼そば定食=600円
▽チャーハン定食=600円
▽チャンポン定食=600円
▽冷やし中華定食=600円
▽カレーライス定食=600円
▽納豆=50円
▽ミニカレー=100円
▽玉子焼=200円
▽もつ煮=200円
▽コーヒーゼリー=100円
▽プリン=100円
▽ヨーグルト=100円

230604machisyokudou4.jpg日替わり定食と漬物。この日のおかずは魚料理

 既製品を使わずに

 山本さんは子育て時代、子どもたちのご飯には決して既製品を使わず、手作りを徹底した。料理の勉強になった番組は「きょうの料理」「キユーピー3分クッキング」「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」。家事の合間に見て、すぐレシピを覚えた。ヘルパー時代には東日本大震災の被災者の仮設住宅も回った。「地域って大事だなあ、近所付き合いって大事だなあって気づくきっかけになった」と振り返る。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。