2023年09月17日

　不動の人気　天丼

　県や市の庁舎、会社の事務所が並ぶ街の一角に、変わらないおいしさを求めて客が吸い込まれる。いわき市の「お食事どころ天政（てんまさ）」は創業から３３年、自慢の天丼で市民の胃袋を満たしてきた。「久しぶりに来ても同じ味。それがいいよね」。味を守り続けてきたマスター根本守さん（６４）は料理への信念を語る。

　創業以来、天丼は不動の看板メニュー。エビ２本にイカや季節に合わせた魚、野菜３品がのった「お得天丼」が全体の注文の半分。２種類ある「海老天丼」と合わせると７割を占めるというから、その人気は圧倒的だ。

　天ぷらはサクっ、ふわっとした食感や、口の中で広がるうまみが人の心を引き付ける。粉や衣のかたさ、温度、揚げる時間、揚げたての素早い提供...。軽い食感を生み出すため、至るところにこだわりが詰まっている。守さんは「ほかとの違いがすぐ分かってもらえると思う」と自信をのぞかせる。

　たれは守さんの思う「いわきの味」。「しょうゆ臭さがありつつも、さっぱり」とした風味が鼻を抜ける。しつこくない素朴な味わいに、飽きがこない。長く継ぎ足してきたものは東日本大震災で被災し、一度途切れてしまったが、苦労を重ねて今では「常連さんも違いが分からない」くらいに復元された。

　大学時代にすし店でアルバイトをしていた守さん。料理の楽しさにのめり込むと、一念発起して大学を中退し、飲食の道を志した。そうして最初に就職したのが、都内にある天ぷら割烹（かっぽう）の料理店。１９歳からの５年間、今に続く天ぷら作りの技術を身に付けた。

　その後、生まれ育ったいわきに帰郷。かつてＪＲいわき駅前にあった藤越レストランビル内の居酒屋「源九郎」に就職すると、２、３年後には店長に就任。「忙しい日は１日に１００万円を売り上げる」ほどの人気店を仕切った。

　夢見てきたのは自分の店を持つことだった。「やるなら早いうちに出したい」。３１歳の時に話が舞い込み、独立した。店名も、この時のためにひそかに決めていた。自信のある天ぷらから「天」、早くして亡くなった父政一さんを忘れないようにと名前から「政」を取った。

　接客で支える妻

　長年利用してもらうための秘訣（ひけつ）は、料理のおいしさだけではない。主に接客で店を支える妻千恵子さん（６８）は「自分から声をかけるようにしている」と心がけを明かす。

　千恵子さんがたわいもない会話を重ねていると、守さんが調理場から出てきて話の輪に加わる。そんなささやかな時間も来店する理由の一つだ。約９年、パート従業員として働く小泉葉子さん（４６）は「２人と話しに来たようなお客さんもいる」と話す。

　こうした小さなことの積み重ねは、思いがけずも２人を味方する。新型コロナウイルスが感染拡大し始めた頃、売り上げを心配した常連客が足しげく通った。昨年２人が同時期に体を悪くし休業した際も、多くの心配の声をもらい心を温めた。

　「天ぷらは難しい。この年になっても毎日が勉強だが、なるべく店は続けたい」と守さん。楽しみにしてくれる客のため、天ぷらへの情熱は尽きない。（小磯佑輔）

県いわき合同庁舎の正面に立つ「お食事どころ天政」。店構えは創業時からずっと変わらない

【住所】
いわき市平童子町４の４の１８
いわき建設会館１階

【電話】０２４６・２４・０７８５

【営業時間】
午前１１時～午後２時
午後５時～同９時（ラストオーダー同８時半まで）

【定休日】日曜日

【主なメニュー】
▽お得天丼（海老２本、いか、魚、野菜３品）＝１０００円
▽海老天丼（海老５本）＝１３００円
▽海老天丼（同３本）＝１０００円
▽ガッツリ豚バラ焼肉丼＝１０００円
▽かつ丼＝１２００円
▽ソースかつ丼＝１１００円
▽新鮮まぐろ丼＝１０００円
▽新鮮まぐろ刺身定食＝１３００円
▽ハッピーセット（天ぷら６品、マグロの刺し身、小鉢、お新香、ライス、みそ汁）＝１３００円

一番人気のお得天丼（手前）とガッツリ豚バラ焼肉丼

　自慢の食材マグロ

　居酒屋「源九郎」に勤めていた際は、刺し身を担当していたという守さん。独立してからも海鮮には力を入れている。
　その一つは新鮮まぐろ丼や新鮮まぐろ刺身定食に使われるマグロ。源九郎時代の付き合いから、良いマグロを仕入れることができるといい、鮮度は抜群だ。守さんは「値段以上のおいしさだと思う。お得なメニューだね」と語る。冬限定かき鍋定食も、カキの産地にこだわっておりお勧めだ。

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　ＮＨＫラジオ第１「ふくどん！」で毎週木曜に連携企画

　まち食堂物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『ふくどん！』（休止の場合あり）のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。