【まち食堂物語】こたき食堂・南会津町 地域と共にこれからも

 
「地域の人たちに支えられて食堂を続けることができている」と話す芳賀さん。1人で店を切り盛りし笑顔で利用客を迎える(吉田義広撮影)

 どこか懐かしい

 南会津町西部の伊南地域を走る国道401号沿いに「こたき食堂」はある。奥会津伝統の「藍染め」を使ったのれんが目印の古き良き食堂だ。店主の芳賀セツ子さん(73)が一人で店を切り盛りし、アットホームな雰囲気が漂う。住宅の居間だった場所を食事スペースとして利用しているため、初めて訪れた客もどこか懐かしさを覚える。「地域の人たちに支えられて食堂を続けることができている。だから、これからも頑張って営業していきたい」と芳賀さんは笑顔を絶やさない。

 店に入ると、もう30年以上は使っているというまきストーブが目に入る。冬にはスギやリンゴの木、雑木などを燃やして店内を暖める。「燃料費の節約にもなる。煙突掃除は大変だけど」。まきストーブの近くでラーメンをすすると、額に汗をかきながら体がポカポカになる。

 創業は約50年前。「古町の大火」と呼ばれる火災が発生し、街並みが再編されるのがきっかけだった。農家だった芳賀さんの義父が一念発起し、会津若松市の食堂で修業し開店した。店名は近くを流れる「小滝川」にちなんだ。芳賀さんは25歳の時に同町舘岩地域から嫁ぎ、食堂を手伝うようになった。田んぼや畑で農産物をつくっていたため、食材には困らなかった。

 看板メニューは創業時から提供し続けている「ソースカツ丼」。中濃ソースでロースカツを甘めに仕上げ、下の千切りキャベツやご飯にしみ込ませる。コメは伊南産コシヒカリを使用。ソースカツの脇に夏は南郷トマト、冬にはリンゴを添えるのが一風変わったサービスで、食事の最後に口の中をさっぱりさせる狙いがある。麺類の人気は野菜たっぷりの「ミソタンメン」。客からの「(メニューに)タンメンがあるなら、ミソタンメンも作ってほしい」という発案から「新加入」した。みそやラー油、からしが入っており、ほどよい辛みを味わうことができる。

 一人でも続ける

 義父母が高齢のため引退すると、芳賀さんは亡き夫の文昭さんと食堂を経営。近所からも人を雇って、地域の集会の仕出しや宴会などにも携わっていた。「頼まれれば何でもやっていた。自分には子どもが3人いたが、ろくに面倒も見なかったと思う」と、かつての盛況ぶりを振り返る。

 芳賀さんが44歳の時、文昭さんが病に倒れた。それでも「私一人でも店は続ける。何でかんでやんないといけないと思った」と迷いはなかった。食堂一本に絞り、メニューも厳選。開店前に料理の下準備をするなどして工夫し、一人でも店を回せるようにした。

 店に通う地域の常連客は多い。かつて退職までの約3年間、平日はほぼ毎日来店した男性客もいたという。「よく飽きずに来てくれた。お客さんの『おいしかった』の言葉が自信になる」。食堂の後継ぎはおらず、芳賀さんの代で店を閉じる見通し。「孫からは冗談で『90歳までやってほしい』と言われている。それは無理でも、体が続く限りは店に立ち続けるつもり」とバイタリティーは衰え知らず。腹をすかせた客が藍染めのれんをくぐる日々は、まだまだ続きそうだ。(富山和明)

お店データ

こたき食堂の地図

こたき食堂南会津町伊南地域の国道401号沿いに店を構えるこたき食堂

【住所】南会津町古町字居平26の5

【電話】0241・76・2256

【営業時間】午前11時30分~午後2時

【定休日】毎月第2、4日曜日

【主なメニュー】
▽カツ丼=850円
▽ソースカツ丼=850円
▽焼肉丼=850円
▽玉子丼=650円
▽焼肉定食=1100円
▽カレーライス=700円
▽カツカレー=950円
▽ラーメン=600円
▽ミソラーメン=750円
▽タンメン=750円
▽ミソタンメン=750円

ソースカツ丼とミソタンメン看板メニューのソースカツ丼(右)と麺類で人気のミソタンメン

 自然豊かなエリア

 こたき食堂がある南会津町伊南地域は自然豊かな環境が広がる。樹齢約800年と伝わり、秋にはライトアップされる「古町の大イチョウ」、スキーのクロスカントリーコース、伊南川でのアユ釣りなどで知られる。

 芳賀さんは「アウトドアが好きな人にはお勧めのエリア。季節によっては写真愛好家も訪れる地域なので、写真が好きな人はぜひ一度、足を運んでもらいたい」と呼びかける。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。