【まち食堂物語】陣楽・古殿町 笑顔絶えない"陣"守る

 
「多くの人が楽しく集える場所にしたい」と笑顔で料理を提供する水野美夫さん、ヒロ子さん夫妻(吉田義広撮影)

 全部外せぬ商品

 古殿町の陣楽は、県南地方といわき市を結ぶ県道(御斎所街道)沿いに店を構えて37年になる。店主の水野美夫さん(76)と妻ヒロ子さん(75)が開業して二人三脚で切り盛りしてきた店で、美夫さんは「料理を食べてくれるお客さん一人一人を大切に営業してきた」と力を込める。

 店名を冠した陣楽ラーメンは広東風のしょうゆベースで、甘辛いあんがかかっている。人気のチャンポンメンは塩味で、ラー油の香りと辛みが卵や野菜の優しい甘みと調和している。畜産が盛んな石川郡の銘柄牛「いしかわ牛」を使った裏メニューもあり、美夫さんは「全部が外せない人気商品だ」と胸を張る。

 美夫さんは元々、同町で左官業を営んでいた。当時は住み込みの若い職人4、5人を束ねて現場に繰り出す日々を送っていたが、一方で後継者が見つからず頭を悩ませていた。娘3人が成長したころ、「思い切って新しい仕事に挑戦してみよう」と飲食店を開くことを決めた。

 おいしい料理を手頃な価格で提供するため、中華料理を軸にしようと考えた。ヒロ子さんが千葉県や郡山市で料理を修業し、美夫さんは泊まり込みで来てもらった料理人から調理のノウハウを教わった。田んぼだった土地を活用して1987年に開店すると、地域で珍しかった中華料理が受けて大いに繁盛した。

 地元住民をはじめ、御斎所街道を経由して中通りと浜通りを行き来するトラック運転手らが多く来店した。夏はいわきに向かう海水浴客、冬は会津を目指すスキー客と、街道を行き交う観光客も立ち寄った。夜は午前2時ごろまで店を開けて宴会需要に応え、開店から数年後には宴会用の建物も増築した。

 美夫さんは開店後しばらくの間は左官業を続け、二足のわらじで休む間もなく働いた。繁忙期には宴会客が帰った後に片付けや仕込みを済ませ、夜明け前に帰宅した。日中はタイルや外壁の工事に汗を流し、昼食時には店に戻り出前を配達した。「自分が望んで始めた仕事。家族のためにも頑張らなければという責任感で働いていた」と振り返る。

 多忙がたたったのか、美夫さんが体調を崩して入院することもあった。その間は、ヒロ子さんがパート従業員や友人らの助けを借りて店を続けてきた。ヒロ子さんは「大変な時でも手を貸してくれる人に支えられた。すてきな出会いに恵まれた」と感謝する。

 当初の味を貫く

 そんな店では現在、定食やラーメンのほか、酢豚やマーボー豆腐などの一品料理を幅広く提供している。「変わらない味で勝負したい」との思いから開店当初の味を貫いており、約20年ぶりに来店したというトラック運転手に「以前と同じおいしさだ」と喜ばれたこともある。

 店名は地域にあった陣屋跡にちなんで名付けた。陣には「人の集まる場所」の意味もあり「多くの人が楽しく集える場所にしたい」との願いを込めた。水野さん夫婦は「お客さんの笑顔を見るのがやりがい。お客さんが来てくれるうちは店を続けたい」と口をそろえる。これからも夫婦で力を合わせ、大切な陣を守っていく。(秋山敬祐)

お店データ

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県南地方といわき市を結ぶ御斎所街道沿いに店を構える陣楽

【住所】 古殿町仙石字蛭内8

【電話】 0247・53・3195

【営業時間】 午前10時半~午後8時 (同7時半ラストオーダー)

【定休日】 不定休

【主なメニュー】
▽陣楽ラーメン=1000円
▽チャンポンメン=900円
▽五目焼そば=950円
▽焼肉定食=950円
▽肉入り野菜炒め定食=950円
▽豚肉と茄子の味噌炒め定食=950円
▽五目チャーハン=800円
▽肉丼=1000円
▽鳥のから揚げ=950円

240128shokudo4.jpg 人気のチャンポンメン(右)と裏メニューのいしかわ牛定食

 「流鏑馬」の乗り手

 美夫さんは若い頃、800年以上の伝統を誇る古殿八幡神社例大祭の神事「流鏑馬(やぶさめ)」に乗り手として参加してきた。店内には伝統衣装を身にまとった美夫さんが馬にまたがって矢を射る写真や、美夫さんが写った例大祭のポスターが大切に飾られている。祭りが近づくと、早朝などのわずかな時間を見つけて練習に励んできたという。「役目を無事に果たせると、ほっとして達成感があった」と当時を懐かしむ。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。