日本家屋の風情

　会津坂下町の国道４９号沿いで、ひときわ目立つ黄色い看板に赤い「馬さし」の文字。半世紀以上の歴史がある坂下ドライブインの所在を示し、同町の名物を迫力満点にアピールしている。店の経営を支えているのは専務の堀信介さん（３１）ら一家と約２０人の従業員たち。一番人気メニューの「桜さしみ定食」をはじめ、創業当時の味をベースに代々受け継がれている。

　堀さんの祖父信二さん（故人）が１９７２年に、現在の場所に「堀ドライブイン」の名前で食堂をスタートさせたのが歴史の始まり。当初は親類ら４人で店を切り盛りしていた。現在の店舗になったのはそれから１０年後。「木造建築をこよなく愛した信二さんが、地元の大工たちと話し合いながら建てた」と堀さんが明かす。２階建ての店舗は日本家屋特有の風情が漂い、一度見たら強く記憶に残る。

　中に入ると小上がりや宴会用の個室などが広がる。民宿として宿泊客も受け入れている。店舗を建てた当時は、高速道路の建設により作業員が頻繁に利用していた。現在も坂下ドライブインのファンが利用し、お目当ての料理を楽しんでいく。

　桜さしみ定食はモモとロースの２種類。牛や豚と比較するとくせがなく、淡泊な赤身は栄養価が高いのが特徴だ。味の決め手は刺し身につけるたれ。会津坂下町で馬刺しを提供する店は多いが、たれの味は千差万別とされている。坂下ドライブインにも創業当時から続く「秘伝のたれ」がある。みそベースでレシピは門外不出。従業員の板前たちが代々味を守ってきた。口に入れるとまず甘みを感じ、後からぴりっとくるたれはご飯との相性が抜群で人気を呼ぶ。

　馬刺しだけでなく、鳥唐揚げ定食やホルモン定食など食堂の王道メニューも長年愛されている。通い続ける常連客の中には毎回同じメニューを頼む人もいて、それぞれの料理を楽しみに来店する人も少なくない。

　経営を担う責任

　堀さんは３兄弟の長男。幼い頃、店舗の小上がりスペースが遊び場だった。現在も勤務している従業員の中には、堀さんが幼い頃から働く古株もいる。「両親は店で忙しくしていたため親代わりのような従業員もいて、今も働いてくれている」と感謝を口にする。

　堀さんは子どもの頃から、現社長の父賢二さんから「長男だから、大人になったら後を継ぐように」と言い聞かせられてきた。堀さんは大学卒業後、金融機関に就職しお金の管理などについて学んだ。坂下ドライブインを運営する堀商店に入社したのは２０２２年の３月だった。

　現在は専務の立場から経理を担当したり、店舗内を点検したりして、持続的な店舗経営に向けた計画の策定などを手がける。「自分が生まれる前から続いている店。古くからのお客さんもいて、将来への責任を感じている」と気を引き締める。自ら調理場に立つことは少ないが、商品開発のために料理を勉強することも考えている。物価高など業界を取り巻く課題は多いが「できることから解決していき、可能ならもっと大きな店にしたい思いもある」と夢を膨らませる。（鹿岡将司）

国道４９号沿いにある坂下ドライブイン。木造建築で日本家屋特有の風情が漂う

【住所】会津坂下町字古町川尻４４６

【電話】０２４２・８３・３０２７

【営業時間】午前１１時～午後２時３０分、午後５時～同８時３０分

【定休日】不定休

【主なメニュー】
▽桜さしみ定食（モモ）＝１０００円
▽桜さしみ定食（ロース）＝１３００円
▽桜ステーキ定食＝２５００円
▽鳥唐揚げ定食＝８８０円
▽カレーライス＝７００円
▽ホルモン定食＝７８０円
▽ラーメン＝６５０円
▽桜なべ定食（期間限定）＝２０００円

馬肉を使った桜さしみ定食。創業当時から続く秘伝のたれで味わう

　イヌ用ジャーキー

　馬肉を使ったメニューは刺し身のほか鍋物やステーキなどを提供しているが、変わり種でイヌ用のビーフジャーキーも販売している。愛犬家の従業員が発案し、最近発売した。イヌを飼っている利用者を中心に人気で、多いときは１日に３０パックほど売れるという。一部の定食に付いている馬肉の煮込みも人気がある。ジャーキーは３０グラム入り、煮込みは２５０グラム入りで、いずれも税込み５００円。食堂隣の売店で購入できる。

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　ＮＨＫラジオ第１「ふくどん！」で毎週木曜に連携企画

　まち食堂物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『ふくどん！』（休止の場合あり）のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。