【まち食堂物語】もりや食堂・福島市 引き継ぐ父の味と思い

 
先代の思いを引き継ぎながら食堂を切り盛りするまゆみさん(左)と伊藤さん(吉田義広撮影)

 長年庶民の味方

 親から子へ、引き継がれる食堂は少なくない。福島市の「もりや食堂」もその一つだ。ただ、ほかと少し違うのは秘伝の料理のレシピが残っていたわけでも、教えられていたわけでもないような状況で、先代から引き継いだことだ。

 白鳥が飛来する阿武隈川のほとりの文知摺橋付近に食堂はある。先代の故斎藤衛夫(もりお)さんが今の橋がかかる1979年より前に創業したようだ。

 「今の橋ができる前は店の前に橋があったんです。店はメインの通りにあって商店街もありにぎわっていた」。衛夫さんの長女で店主の大橋まゆみさん(60)は幼少期の記憶をたどる。橋が新しくなって、まちの雰囲気は変わり、新築の住宅が増えていっても、食堂だけは変わらなかった。正月を除き年中無休。安くてメニューの種類が多く、ボリュームもある庶民の味方として親しまれていた。

 状況が変わったのは2020年4月中旬のこと。衛夫さんが体調を崩し病院に運ばれた。新型コロナウイルス感染症が広がり出したばかりで、家族でも面会は1度しか許されなかった。店のことなど聞きたいことはたくさんあったが、ほとんど話をできないまま同年5月10日に80歳で帰らぬ人となった。

 当時、まゆみさんは別の仕事をしており、食堂には夜の営業時に配膳などを手伝いに行く程度だった。調理場は衛夫さんの仕事場。「昔ながらの職人で、仕事は見て覚えろというような寡黙な父だった」とまゆみさん。衛夫さんの亡き後に食堂を続けようにも「何も残っていなかった」

 ただ、食堂の片付けを始めると、思いだけは伝わってきた。衛夫さんが次の日の営業に備えて仕込んでいた料理や仕入れた食材、新しいフライパンなどが残っていた。店の存続は厳しいように思えたが「父はまだ食堂をやりたかったんだなと。簡単には辞めちゃいけない」。まゆみさんは引き継ぐことを決意した。

 幸いにも店で調理を手伝っていた料理人の伊藤哲也さん(49)が協力してくれることに。約1年半の準備期間を経て21年10月5日、もりや食堂の"第2章"が始まった。

 伊藤さんもレシピを教わっていたわけではなかったが、覚えている味を頼りに料理を再現。「前と違うよ」と、客から厳しい言葉が飛ぶこともあったが「おやじさんが残した店を自分がつぶすわけにはいかない」と根気強く調理場に立ち続けた。30種類以上あったメニューも極力残した。

 欠かせないネギ

 食堂の代名詞だった料理にのせる「ネギ」も忘れてはいない。ボリュームの良さも受け継ぎ、ネギをトッピングした「昔ながらのカツカレー」は人気商品の一つ。伊藤さん考案の「豚トン重」にも、あめ色の豚肉の上にはたっぷりのネギ。先代の味を受け継ぎつつ、飽きがこないように新たなメニューも加えている。

 再オープンから約2年半。まゆみさんは「ようやく軌道に乗り出した」とほほ笑む。「食堂ってたくさんメニューがあって、きっと一つぐらいは食べたい料理がある。満足そうに帰ってもらった時がうれしいですよね」。今となっては父が食堂を続けてきた理由が少し分かる気がする。(佐藤智哉)

お店データ

もりや食堂

もりや食堂

店ののれんも先代から引き継いでいる

【住所】福島市岡部字上条30

【電話】024・533・3905

【営業時間】午前10時半~午後2時、午後5時半~同8時(水~土曜日)

【定休日】月曜日

【主なメニュー】
▽正油ラーメン=700円
▽塩野菜タンメン=900円
▽豚トン重=1000円
▽カツ丼=1000円
▽肉野菜炒め定食(塩味)=900円
▽焼肉定食=1000円
▽からあげ定食=900円
▽昔ながらのカツカレー=1000円
▽ラーメン定食(煮込みかつ、 ラーメン、半ライスなど)=1400円
▽山菜うどん・そば=800円
▽肉うどん・そば=850円
※女性にはデザートをサービス

もりや食堂

ネギをトッピングした(手前から時計回りに)昔ながらのカツカレー、塩野菜タンメン、豚トン重

 愛される猫の置物

 店内には平和や魔よけ、幸運の象徴とされる「眠り猫」「招き猫」など、猫にまつわる縁起の良さそうな置物が目立つ。衛夫さんが営業していた時から飾ってある物で、店が再開した時には「眠り猫」を目当てに来店した客もいたという。

 また、店の近くには猫が寄ってくるそうで、まゆみさんは「時折、店の前に猫が何匹かやってきて、駐車場係をしてもらっています。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。