【まち食堂物語】初梅・相馬市 安心の優しい家庭料理

 
「うちで出しているのは普通の家庭料理」と話すヒナ子さん。優しい味わいの日替わり定食で常連客を引きつけて離さない(石井裕貴撮影)

 「日替わり」だけ

 相馬市の田町通りは、城下町の風情を漂わせる落ち着いた雰囲気の商店街だ。通りにのれんを掲げる「初梅」では、気取らない、優しい味わいの日替わり定食が楽しめる。毎日食べても飽きのこない料理が、常連客を引きつけて離さない。

 昼時の店内に入ると、どこを見回してもメニュー表らしきものが見当たらない。それもそのはずで、この店が出すのは日替わり定食だけ。ホイコーローとあじフライ、チキンカツとほっけ焼き魚など、主菜を肉や魚にした2種類の定食が昼までに仕込まれる。日によっては揚げ物も加わり、3種類に増えることも。女将(おかみ)の岡田ヒナ子さん(75)は「だいぶ昔はいろいろ作っていたんだけど、手が回らなくて。いつの間にか定食だけになっちゃった」と笑う。

 客はのれん脇に据えられた小さな手書きの看板を見て、その日に食べられる料理をチェックする。店内に腰かけると、お茶を勧めてくれるヒナ子さんに手短に注文を伝え、後は熱々の番茶をすすって待つだけだ。

 使い込んだ膳に載せて運ばれるのは、肉や魚のメイン料理、ご飯、みそ汁、野菜の小鉢(2品)、漬物、デザートの計7品。メイン料理は注文を受けてから火を通すため、ホイコーローから立ち上る湯気や焼き魚の香ばしさに食欲がそそられる。野菜がたくさん食べられるのも、この店の定食のありがたいところだ。小鉢にはきんぴらごぼう、ホウレンソウのおひたし、カボチャの煮付け、ポテトサラダなどがたっぷりと盛られている。いずれの料理も塩分が控えめで、全て平らげても後味がいい。

 ヒナ子さんは「うちで出しているのは普通の家庭料理。あまりしょっぱくしないのも、子どもからお年寄りまで安心して食べてほしいから」と思いを込める。食後にはコーヒーも付き、値段は600円。体にも懐にも優しい定食を頼りにして、単身赴任してきたサラリーマンが昼も夜も足しげく通うというのもうなずける。

 背中を押されて

 店は夫の義貞さんが1978年に開いた。「元々(義貞さんは)会社勤めで、私はサラリーマンの嫁だと思っていた。それが急に店を開くことになって。『人前に出るのなんかとんでもない』と思っていたのよ」と振り返る。開業にはしゅうとめのムメさんの勧めもあった。ムメさんは若くして夫に先立たれた。幼かった義貞さんら子どもたちを女手一つで育てるため、居酒屋を切り盛りした経験があった。「私も手伝うから」とムメさんに背中を押され、ヒナ子さんは女将になった。

 当初は居酒屋がメインで、昼は近くの会社員に「おまかせ」で食事を出していた。だが、田町通りの整備に合わせて店を新築したのをきっかけに、昼の営業にも力を入れ、釜飯やうどんなども出すようになった。2006年に亡くなった義貞さんが体調を崩した頃から、息子の武久さん(50)が調理場に立つようになり、今では親子二人三脚でのれんを守る。ヒナ子さんは穏やかに語る。「無理をしないで、自分たちにできるものを出して、喜んでもらえたら、それだけでいい」

お店データ

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240225syokudo022.jpg相馬市の田町通りにある「初梅」。蔵のような外観で城下町の風情が漂う

【住所】 相馬市中村字田町57

【電話】 0244・36・5922

【営業時間】 午前11時半~午後2時、 午後5時~同8時

【定休日】 日曜日

【主なメニュー】
▽日替わり定食=600円 ※肉や魚を使ったメイン料理にご飯とみそ汁、野菜の小鉢2品、漬物、デザート、コーヒーが付く

240225syokudo023.jpg日替わり定食には、肉か魚のメイン料理にご飯とみそ汁、小鉢、漬物、デザート、コーヒーが付く(写真は、ほっけ焼き魚とチキンカツがメイン料理)

 釜飯の看板は名残

 田町通りにある店は蔵のような外観で、ここが相馬藩6万石の城下町だったことを思わせる。店先にはお釜の看板がつり下がっている。看板は店の新築当時、釜飯を出していたことの名残だと、ヒナ子さんが教えてくれた。

 店名はムメさんが開いていた居酒屋の名前を引き継いだ。みんなから「お梅ちゃん」と呼ばれていたムメさんが「初めて」開いた店だという意味を込めて名付けられたという。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。