【まち食堂物語】ドライブイン磐尚・猪苗代町 雪下キャベツ、肉は脇役

 
3代目店主の尚之さん(右から3人目)。(左から)妻慶子さん、長男尚大さん、長女彩加さん、2代目女将の律子さん、従業員の狩野悦子さんらと笑顔で来店者を迎える(石井裕貴撮影)

 土産売り場の奥

 猪苗代町の野口英世記念館隣に「何を頼んでもおいしい」と評判の食堂がある。創業60年以上のドライブイン磐尚(ばんしょう)は、店の手前が土産物売り場、奥が食堂になる。昔ながらのドライブインという控えめなたたずまいのため、評判を知らない観光客ならうっかり素通りするかもしれない。ところがこの食堂は観光施設に隣接する好立地にあぐらをかくことなく、提供する料理にとことんこだわる。3代目店主の二瓶尚之さん(43)は「料理でうそをつきたくないから、絶対に手抜きだけはしたくない」と話す。

 祖父の尚久さん(故人)がサラリーマンを定年退職後、たまたま記念館の入り口が自宅側を向くようになったことから家の隣で開業した。最初は土産物店だけで、その数年後に食堂も始めた。店名は磐梯山の「磐」と祖父の名前の「尚」を並べてドライブイン磐尚とした。昔のメニューはラーメン、カレー、丼物など団体客向けの定番料理が多かったという。長年にわたり大型バスなどの観光客を対象に、土産物と昼食を提供する場所としてにぎわい続けた。

 子どもの頃から店を継ぐことが頭のどこかにあったものの、高校時代にイタリア料理店でアルバイトをしたことをきっかけに料理に興味を持ち始めた。東京都内の調理師専門学校を卒業後、いくつかの飲食店で調理を経験し、20代前半で実家に戻った。当時の店は昔のドライブインのやり方がそのまま続いていて「衝撃を受けた」と尚之さん。「昔は土産物店が忙しかったし、団体向けのメニューだったので仕方がない部分もある。それでもこれは少しずつ変えていかないと駄目になる」と感じていた。

 手打ち十割そば

 尚之さんが調理場に入ってからは、なるべく手作りにこだわるようになり、ラーメンもカレーも味が大きく変わった。「外観が土産物店そのものだから、まずは飲食店として地元の人たちに認知してもらおうと必死に努力した」と当時を振り返る。看板メニューを一新し、今も定評がある手打ちそばは毎朝自ら十割そばを打っている。かつ丼は煮込みかつ丼1種類だけだったのが、新メニューとしてソースかつ丼も加えた。

 「今は土産物で商売できる時代ではなくなり、大型バスの団体客も少なくなった。以前は考え方の対立でぶつかることもあったが、食堂の味を極めることに集中するという息子の判断は間違っていなかった」。3代目のたくましい成長に、2代目女将(おかみ)の律子さん(73)は目を細める。

 最近は地元産の食材にも一層こだわるようになった。そばは地元産のそば粉で、天ぷらの野菜もなるべく地元産を使うようにしている。冬限定の味噌とんてき定食は「肉は脇役で、メインは地元産のキャベツ」と尚之さん。猪苗代町名物の雪下キャベツを広めるためにメニューを開発し、その年のキャベツがなくなればメニューも終わる。

 尚之さんは「なるべく出来合いのものは使わないようにしているが、それが難しいからこそ面白くて続いている」ときっぱり。これからも子どもからお年寄りまでに愛される庶民の味を追求する。(伊藤雅将)

お店データ

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240317syokudo023.jpg野口英世記念館の隣に位置し、観光客や地元の常連客から愛され続けるドライブイン磐尚

【住所】猪苗代町三ツ和前田80の2

【電話】0242・65・2851

【営業時間】午前10時~午後5時

【定休日】無休(冬期は不定休)

【主なメニュー】
▽手打ちそば・ミニソースかつ丼セット=1400円
▽天ざるそば=1600円
▽喜多方らーめん=750円
▽ミニソースかつ丼・らーめんセット=1150円
▽ソースかつ丼=1200円
▽煮込みかつ丼=1200円
▽カレーライス=800円
▽カツカレー=1200円
▽天丼=1300円
▽ざるそば=1000円
▽ざるうどん=800円
▽豆ずり餅(4個入り)=500円
▽味噌とんてき定食 =1200円
 (冬期のみ、雪下キャベツがなくなり次第メニュー終了)

240317syokudo024.jpg人気メニューの(手前から時計回りに)天ざるそば、味噌とんてき、ソースかつ丼

 自信作の豆ずり餅

 ドライブイン磐尚のもう一つの名物が豆ずり餅。地元産の枝豆ともち米を使用し、すり鉢を使って毎朝手作りしている。調味料は砂糖と塩しか使わず、無添加食品として保存料なしにもこだわっている。味だけではなく枝豆のいい香りも楽しめる。数量限定のため、午後の早い時間には売り切れてしまうことが多い。尚之さんは「30年前からの人気商品で、試行錯誤を繰り返しながら作り上げてきた自信作」と胸を張る。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。