【新まち食堂物語】妙見食堂・矢吹町 寮母の愛、味にも量にも

 
(左から)喜芳さん、光子さん、洋子さん、一子さん。家族4人で愛情たっぷりの料理を提供する(吉田義広撮影)

 矢吹町の田園風景が広がる十字路交差点の一角に立つ妙見食堂。黄色いのれんをくぐると、まるで実家に帰ってきたかのような温かい雰囲気に包まれる。2代目店主の井沢一子さん(50)は、幅広い年齢層の地元客が定食をおいしそうに頬張る姿に目を細める。

 光南高の下宿も営んでいる。下宿生の多くは部活生。店の壁には硬式野球部の写真や新聞の切り抜きが飾られている。現在は野球部員6人が下宿しているが、多い時は20人以上を受け入れた。井沢さんは「まるでわが子のよう」と笑みを浮かべる。下宿生は同級生を呼び、食堂のテーブルを囲む。卒業生は"母の味"を求めて食堂を訪れる。

 メニューは、から揚げや豚生姜(しょうが)焼きなどの定食、白河ラーメンを中心にした麺類など。食べ盛りの高校生は一瞬にして大盛りの定食を平らげる。量は愛情だ。それは老若男女、どの客にも変わらない。「みんな高校球児だと思って大盛りを出してしまう。おなかをいっぱいに満たしてあげたい」と井沢さんは話す。

 腕磨くため修業

 食堂は井沢さんと初代店主の父喜芳さん(81)、母洋子さん(80)、妹の富永光子さん(47)の家族4人で切り盛りする。創業は1973年頃。喜芳さんが東京都内で修業した後、洋子さんの地元である矢吹町で独立した。当初は食堂と旅館を兼ね、店はいつも宴会客でにぎわっていた。

 「高校生の頃は看護師になりたかった」。井沢さんは店を継ぐ気はなかった。しかし祖父母から「店を継いでほしい」と頼まれ、長女としての責任感から料理の道へ進んだ。調理師免許を取得した後、20代前半は都内の中華料理店や須賀川市のホテルの調理場に立った。約30年前に光南高の下宿を始め、忙しさが増した家業を手伝うため実家に戻った。

 "寮母"として高校生の面倒を見ている傍ら、食堂も手伝った。次第に料理の腕を磨きたくなり、15年ほど前に白河市のラーメン店「一休」で修業。ここで特製チャーシューの作り方を教わった。豚のもも肉を炭火で3時間かけて燻製(くんせい)する、今の食堂には欠かせない存在だ。

 自家製麺に挑戦

 「修業先で学んだ技術を生かしたい」。そう思っていた矢先、東日本大震災が発生した。建物は半壊。食堂の存続のため改修を急ぎ、震災から半年後の9月に再建した。併せてメニューを刷新し、既製品だったギョーザを手作りにした。

 さらに白河ラーメンの麺を自家製にすることにも挑んだ。国産の小麦粉を使用し、生地をじっくり寝かせることでこしが強く、もちもちした手打ち麺が生まれる。当初は太麺で提供していたが、常連客から「細い方がいい」と助言を受けた。細めの縮れ麺に作り直すと大好評で、続々と注文が入った。鶏がらと豚のげんこつをじっくり煮込んだ味わい深いスープが麺によく絡む。

 朝4時から始まる麺の仕込みに、下宿の仕事。井沢さんの一日は長い。「どっちもあるから、私は頑張れる」。半世紀続く食堂の店主と寮母の「二足のわらじ」はこれからも続く。(小山璃子)

お店データ

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■住所   矢吹町善郷内5

■電話   0248・42・4014

■営業時間 午前11時~午後2時(同1時30分ラストオーダー)

■定休日  日曜日

■主なメニュー
▽ラーメン=700円
▽ラーメン&チャーハン=1050円
▽から揚げ定食=1000円
▽豚生姜焼き定食=1000円
▽ギョーザ(6個)=400円

240414syokudou2.jpg 人気の「ラーメン&チャーハン」。ラーメンは味わい深いスープが自家製の細めの縮れ麺によく絡む

 保護者特製のれん

 黄色いのれんは今春卒業した下宿生の保護者が感謝の気持ちを込めて作製した。「妙見食堂」の文字の刺しゅうが施され、裏には高校3年間を野球に打ち込むため親元を離れて過ごした生徒の名前が書かれている。井沢さんは「とってもきれい。すてきなプレゼント」と喜ぶ。 240414syokudou4.jpg

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。