【TRY・登り窯(上)】ろくろで成形、硬い粘土に苦戦

 
賢さん(左)の指導を受けながら、粘土をグラスの形に整える

 大堀相馬焼の窯元・陶吉郎窯(とうきちろうがま)がいわき市四倉町に構える登り窯で、2年ぶりに火入れがあるという。コロナ禍で作品を披露する場がないため見送っていた火入れの復活。その貴重な機会に立ち会いたいと、「弟子入り」を志願した。(いわき支社・緑川沙智)

 指導してもらうのは、陶芸家の近藤学さん(67)と息子の賢(たかし)さん(40)の2人。東京電力福島第1原発事故で浪江町からいわき市に避難して登り窯を構え、創作活動を続けている。

 「登り窯は手間が掛かってリスクが高いけど、世界に一つしかないデザインになるんだよ」。2人は1200度前後となる窯の温度を操り、味わいある作品を作り上げる。

 登り窯は傾斜を活用した造りで、四つの部屋に分かれている。アカマツを燃やし、1200度前後まで温度を上昇。まきで温度管理し、陶器の模様となる炭のかかり具合や火の走り方を調整する。

 弟子入りし、完成を目指すのはグラスとおつまみをのせるお皿。陶器で飲むビールは泡立ちが良く、格別と聞いた。ビールを飲む姿を想像しながら、気持ちを入れ直した。

 まずはろくろを使った粘土の成形だ。高温に耐えるためなのだろうか。粘土がとても硬く、力が必要だ。苦戦する記者の横で、賢さんはすぐに粘土を成形していた。グラス作りでは板状の粘土をグラスの型に巻き付け、積み上げる。水で薄めた泥で接着しながらの作業。終えると大作を作り上げたような充実感だ。

 いよいよ登り窯の前へ。学さんが「窯の前には熱くて立てないからね。二重にしっかり着込んできて」と一言。半信半疑のまま、つなぎに着替えて登り窯のある場所に入った。

 窯の前は猛烈な熱さ。ずっとは立っていられないほどの熱を感じる。まきを持つ手に力が入った。

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 陶吉郎窯 江戸で楽焼師として創業した近藤平吉(1736~1818年)が近藤家の陶業を始めた。2代目の近藤陶吉郎(1789~1857年)が相馬藩に召し抱えられ、現在の浪江町に根付いた。平成に入り、学さんが窯主を継承。原発事故で避難し、2018(平成30)年にいわき市四倉町に工房を構えた。