アニメーション映画「ルックバック」の監督と脚本、キャラクターデザインを手がけ、本年度芸術選奨の文部科学大臣新人賞に選ばれた、本宮市出身のアニメーター・アニメーション監督の押山清高さん(43)。原画から監督まで幅広く手がけたり、自ら制作会社を設立したりと、業界では「異例」といわれる制作手法でも注目を集める押山さんの、これまでとこれからを聞いた。
原体験、作品に反映
本宮市出身の押山さんが幼い頃から見ていた景色には、常に安達太良山があったという。その原体験は作品にも反映されており、「秋田県が舞台の『ルックバック』の作中、季節の移ろいを鳥海山で表現するシーンがある。この場面は原作にはなく映画オリジナルで、多分僕の記憶の中にある安達太良山の風景から、山で季節を表現するという発想につながったと思う」と明かす。そんな古里の記憶は「今後も意識的にも無意識的にも作品に投影されるだろう」と話す。27日に公開される県の短編アニメ「赤のキヲク」では、都内で働く女性が自分の原点や古里へ思いをはせる物語を描いた。
「ずっと絵を描いている子どもで、絵を描く仕事に就きたいと思っていた」という押山さんは、漫画家やアニメーターを目指して20歳のときに上京した。
「とりあえず食べていけるようにアルバイトだけ見つけて上京した。バイトしながら仕事を探し、アニメーションの制作会社に入った」
プロの世界へと踏み出した押山さんだが、その後、アニメ業界は市場の拡大とともに分業化や効率化が進み、押山さんは個人の創造性が生かせる少人数でアニメを作りたいと思うようになった。そして2017年、アニメ作品の企画から制作までを一貫して行う会社「スタジオ ドリアン」を設立した。
「日本の商業アニメーションの世界は、大人数で制作するのが一般的。その中でクリエーターが自ら会社を立ち上げ、少人数で作品を完成させ、実験的な作り方(『ルックバック』で監督、脚本、キャラクターデザインを兼務したことなど)にトライした。結果、こういう運(受賞やヒット)に巡り合えた」と振り返る。
映画「ルックバック」は、日本アカデミー賞「最優秀アニメーション作品賞」「クリエイティブ貢献賞」(原動画スタッフ)など多くの賞を獲得した。「(芸術選奨を含め)今回の受賞で、日本のアニメーションのクリエーティブに対する評価や理解がもっと深まれば」と、業界の発展を願う一方、個人では「当面はアニメはいったん置いておき、漫画を描きたい」と意外な構想が。
チャンス 飛びついて
最後に、夢に向かって頑張る若者へのメッセージを聞くと、「モチベーションがあっても実現できない人は、場所や環境を変えてみて。あと、チャンスがあればすぐ飛びつくこと」とアドバイスする。
「環境を変えるなどして、やらざるを得ない状況に追い込むことが、自分を変える一番の力になると思う。見切り発車で構わない。仕事も決めずに上京したことも、会社を作ったことも、僕は全部見切り発車。それでもどうにかなってきた」と説得力のある言葉が続く。
加えて、やみくもに動くのではなく、手応えや自信、実績、適性を見極めることも大切だという。若者に限らず、夢を追う全ての人に響くメッセージだ。