東京電力福島第1原発事故による避難指示が解除された飯舘村長泥地区の特定復興再生拠点区域(復興拠点)で23日、営農が再開され、地区の住民らが田植えに臨んだ。収穫後に放射性物質濃度が食品の基準値を下回れば原発事故後初めて長泥地区産のコメが市場に出荷される。
長泥地区では復興拠点の避難指示が解除された2023年から、出荷制限解除に向けた試験栽培と実証栽培が行われた。収穫したコメは出荷せず、放射性物質濃度を測定した後に廃棄された。23年産米と24年産米で安全性に問題がないことが確認されたため、県と村の管理計画に基づき、今年から出荷を前提にしたコメ作りが可能になった。
この日は現地で水稲栽培開始式が行われ、田んぼの持ち主である庄司喜一さん(78)や地区の住民、村職員ら約40人が参加して待望の田植えをした。植えたのは県オリジナル品種の「里山のつぶ」で、作付面積は約25アール。約千キロのコメの収穫を見込んでおり、全量全袋検査後に出荷を迎える。
長泥地区には東日本大震災と原発事故前、75世帯が住んでおり、庄司さんは兼業農家を営む一人だった。現在も避難先の福島市で暮らし、農機はトラクター以外全て手放した。それでも村の依頼を受け、地区の住民らと協力して試験栽培を始めた。今後も避難先との二拠点生活を送りながら、コメ作りに汗を流す。
庄司さんは「最高の気分で、ようやくここまで来たという気持ち。秋に実るのが楽しみ。避難区域だった場所でも、安全でおいしいコメができることを多くの人に知ってもらいたい」と笑顔を見せた。
松下貴雄村産業振興課長は「長泥地区で営農を再開できたのは村としても喜ばしい。これを機に作付面積の一層の拡大に期待したい」と話した。