選挙が間近に迫っているからこそ、有権者の歓心を買うことだけに集中すべきではない。将来の負担増を回避しつつ、物価高に苦しむ国民をどう支えるかに知恵を絞るのが国会の責務だ。
自民、公明両党が物価高対策のため現金などの給付を実施する方針を決めた。2024年度の税収上振れ分を活用するという。
自民が「低所得世帯に手厚くする」と、世帯所得に応じて給付額に傾斜を設けることを視野に入れているのに対して、公明は国民一律としたい考えを示している。両党が所得制限の有無や実施の時期などについて詰めの協議を進める。公明は既に発表した参院選公約に給付を盛り込んでおり、自民も公約に反映させる。
野党各党が参院選に向けて、物価高対策として期間を区切った上での消費税減税などを訴えている。立憲民主党は法改正などにより減税まで時間がかかることから、家計支援として2万円の給付をつなぎの措置として掲げている。自公の給付方針は、与党側も何らかの具体策を示す必要に迫られたものとみられる。
政府与党が、世論の風向きを考慮して、現金などの給付を含めた物価高対策を盛り込んだ補正予算案の国会提出を見送ったのは、つい2カ月前のことだ。この間に物価高が急激に悪化したとは言えまい。一度引き下げた方針を再び持ち出したのは一貫性を著しく欠いており、選挙を見据えた「ばらまき」政策だと自ら言っているようなものだ。
新型コロナウイルス感染症の流行時などにも国民一律の10万円の給付を行ったが、支出よりも貯蓄に回る傾向が強かったことが分かっている。物価高の影響に苦しむ家計の支援が目的であれば、給付を貯蓄に回す余裕のある世帯を含めた一律、一時的な給付は不向きと考えるべきだ。
自公は、7月初旬に判明する税収増の規模を見極めて給付する額を判断するとしている。1人当たり数万円の給付を想定しており、その場合の費用は数兆円に上るとみられる。
国財政の健全化が遅々として進んでいないことを考えれば、税収増の分は、そのために使うのが本来の在り方だ。厳しい財政状況を考慮せずに、増収分を財源として当てにするのは、政権を担う党として責任のある態度とは言えないのではないか。
物価高への緊急対応であるとしても、多大な費用に見合う効果が得られるかは慎重に見極めなければならない。