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福島県最低賃金、時給1033円に 引き上げ過去最大78円増、初の1000円超

2025/09/03 07:42

 福島地方最低賃金審議会の専門部会は2日、福島県の最低賃金を現行の時給955円から初の千円超えとなる1033円とする方針を決めた。前年度比78円(8.2%)増は昨年度の55円を上回る過去最大の引き上げ額で、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が示した目安の63円に15円上乗せする形だ。労使双方の準備期間を踏まえ、発効日は例年の10月からずれ込み、来年1月1日とする。週内にも開く審議会で正式決定し、福島労働局に答申する方針。

 この日の専門部会は、例年の倍に当たる異例の8回目の開催。学識経験者ら公益委員のほか、使用者側の委員、労働者側の委員各3人が出席した。公益委員を交えて審議を重ねたが労使双方で引き上げ幅について折り合わず、公益側の見解を踏まえて採決する方向となった。公益側が提示した改定額1033円について非公開で採決した結果、部会長を除いて賛成5人、反対3人となり、公益側の見解を専門部会の結論と位置付けた。

 公益側は、石油価格を含めた原材料の高騰に伴う価格転嫁の難しさやトランプ関税が県内企業に及ぼす影響への懸念などを示しつつ、本県は労働力確保のために他県よりも経済的な立場の優位性を確保する必要性を指摘した。各自治体や各種団体などの意見書では最低賃金の地域間格差が地方からの人口減少を招くとの指摘があることや、賃金引き上げにより他県の近隣都市への労働力流出を食い止めたいとの要望に応える必要があるとした。

 また、本県は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から復興の途上にあり、最低賃金の引き上げにより労働者の流出を食い止めるだけでなく、他県からの労働者の確保や新設法人の集積、技能実習生を含めた外国人の労働力を確保する必要性も指摘した。

 ただ急激な最低賃金の引き上げは、慢性的な人手不足や物価高騰などに苦しむ県内中小企業への経営への影響も懸念される。東北では、既に青森県が76円増の1029円、岩手県は79円増の1031円、秋田県は80円増の1031円、宮城県は65円増の1038円で答申している。

 働き手「1000円超うれしい」 、企業「価格転嫁せぬ方策に」

 「最低賃金が上がることはうれしい」。会津若松市の大学生(20)は喜ぶ。大学生は生活費を賄うため週3回、コンビニでアルバイトしている。割引された食品を選んで購入していると言い「食事の質が上がり、趣味に充てるお金を増やせるかもしれない」と期待する。

 いわき市のパート従業員(59)は市内の中小企業で扶養控除から外れないような範囲の収入で働いている。最低賃金の上昇を歓迎する一方、扶養控除のために労働時間を減らすか、扶養から外れて働くかの選択を迫られる可能性があり、「うれしい半面、複雑」との思いを語る。

 企業側は賃金上昇を踏まえた対応を検討している。「商品価格に転嫁しても、お客さまはついてこられない。商品やサービスにどう付加価値をつけていくかを考えていく」。郡山市で「居酒屋しのや郡山駅前本店」などを経営する「しのや」の社長篠原祐太郎さん(39)は語る。人件費の上昇分は、付加価値の高い商品の販売や原価率の見直し、業務の拡大などと同時並行で進める考えだ。スーパーなどを展開する「いちい」(福島市)の担当者は「千円を超えて正直苦しい」とし、扶養控除を受ける従業員は賃金が上がれば働く時間が制限され、新たな働き手も必要となるため「人手確保も大きな懸念」と語った。

 県経営者協会連合会長の小野利広さん(75)は「上昇は当然の流れだが、価格転嫁できるかどうかが課題となる」と指摘する。連合福島会長の沢田精一さんは「物価高騰を反映した水準。社会保障などもセットで考えてほしい」と求めた。

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