デジタル社会の脆弱(ぜいじゃく)性を突いた卑劣な犯行だ。企業だけでなく、社会全体で危機感を共有し、被害防止に尽くす必要がある。
企業の情報通信システムを狙ったサイバー攻撃による甚大な被害が相次いでいる。アサヒグループホールディングスは9月末に攻撃を受け、大規模なシステム障害が発生した。中核のアサヒビールは商品の受注・出荷が停止され、多くの工場が稼働できなくなった。
データを暗号化して使えない状態にして、復旧と引き換えに金銭を要求するコンピューターウイルス「ランサムウエア」への感染が原因だ。応じなければ闇サイトなどにデータを公開すると脅す手口もある。今回はロシア系のハッカ
ー集団が犯行声明を出し、社員の個人情報や内部文書など9千件超のファイルを盗んだとしている。
障害発生から1カ月が経過したものの、復旧のめどは立っていない。アサヒのほか、通販大手のアスクルも先月、サイバー攻撃によるシステム障害が起き、商品の受注や出荷を停止した。傘下のグル
ープ企業、物流業務を委託する企業などに影響が広がっている。
同様の被害は世界中で起きている。国家の関与が疑われるケースがあり、政府機関が狙われることも少なくない。政府は、国の安全を脅かす安全保障上の重大な脅威であると認識し、他国とも情報を共有して対策を講じるべきだ。
警察庁によると、今年上半期、ランサムウエアの被害報告は30都府県で計116件あった。被害の組織規模別では、中小企業が過去最多の77件に上る。
デジタル化が進み、さまざまな機器やシステムがネットワーク化されている。商品管理や物流などの業務の効率化につながっているものの、中小企業はサイバー攻撃への対策が手薄との指摘がある。
被害に遭えばデータの復旧などに多大な費用がかかり、経営自体を揺るがしかねない。自社だけでなく、取引先に被害が広がる恐れがある。サイバー攻撃の標的が大企業が中心との認識は改め、データのバックアップやウイルスの遮断など自社の備えを点検し、必要な改善を図ってほしい。
不審なメールに添付されたファイルを開いたり、サイトにアクセスしたりなど、個人のパソコンから感染する事案も多い。社内ルールの見直しや社員への注意喚起を徹底することも重要だ。
企業や個人で完全に防ぐのは困難だ。必要な予算、人材を確保できない企業も多い。政府は企業への支援を強化し、国全体でウイルスへの耐性を高めるべきだ。
