新型コロナウイルスワクチンについて。その7

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
新型コロナウイルスワクチンについて7
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

図1

 今回も新型コロナウイルスワクチンについて、厚生労働省と日本感染症学会からの記事を参考にしてお話します。

 1.アストラゼネカ製ワクチンについて

 これまで主にファイザー社製とモデルナ社製のmRNAワクチンについてお話をしてきましたが、今回は日本で3番目に接種が認められ、すでに40歳以上の方に接種が始まったアストラゼネカ製ワクチンについてお話をします。本剤はウイルスベクターワクチンと呼ばれるワクチンです。
 これは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の遺伝子をサルのアデノウイルス(風邪のウイルスであるアデノウイルスに、増殖できないよう処理が施されています)に組み込んだ製剤です。
 本剤接種により遺伝子がヒトの細胞内に取り込まれると、この遺伝子を基に細胞内でウイルスのスパイクタンパク質が産生され、スパイクタンパク質に対する中和抗体産生及び細胞性免疫応答が誘導されることで、SARS-CoV-2による感染症の予防ができると考えられています。

【有効性】(図1)

 本ワクチンの接種を受けた人は、受けていない人よりも、新型コロナウイルス感染症を発症した人が少ないということが分かっています(臨床試験を通じて、約70%等の発症予防効果が確認されています)。ファイザー社製、モデルナ社製の90%よりはやや低い印象ですが、十分に発症予防効果はあります。また、英国、ブラジル、南アフリカ共和国での計4試験の併合解析における接種間隔別の有効率は、接種間隔が長い方がワクチンの有効率が上昇する傾向が確認されました。

【安全性】

 主な副反応は、注射した部分の痛み、頭痛、関節や筋肉の痛み、倦怠感、疲労、寒気、発熱等があります。なお、臨床試験では、これらの症状は2回目の接種時より1回目の接種時の方が、発現頻度が高い傾向が見られています。また、まれに起こる重大な副反応として、ショックやアナフィラキシーがあります。ごくまれではあるものの、ワクチン接種後に血小板減少症を伴う血栓症、毛細血管漏出症候群などを発症した例が、海外で報告されています。接種後に何か新しい症状が現れたら、速やかに医療機関を受診してください。

2.新型コロナウイルスワクチンの開発

 一般に、新型コロナワクチンに限らず、ワクチンの開発は、基礎研究、非臨床試験、臨床試験の大きく3つのステップで進められていきます。その中で、候補物質の探索、有効性・安全性の確認、品質を担保しつつ大量生産が可能かどうかの確認などを行う必要があり、開発には一般に年単位の期間がかかります。
 現在、新型コロナウイルス感染症のワクチンについては、早期の実用化を目指し、国内・海外で多数の研究、開発が通常より早いペースで進められています。わが国も研究、生産までの全過程の加速化を支援しています。
 ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスクはあり得ません。病気を予防するという利益と副反応のリスクを比較して、利益がリスクを大きく上回る場合に接種が推奨されます。国が薦めるから接種するというのではなく、国民一人一人がその利益とリスクを正しく評価して、接種するかどうかを自分で判断することが必要です。
 現在までの情報では、mRNAを用いたCOVID-19ワクチンの有効性は高く、副反応もほとんどが一過性で、アナフィラキシー以外には重篤な健康被害はみられていません。アストラゼネカ製に代表されるウイルスベクターワクチンでは、血栓塞栓が起こると報告されていますが、その頻度は決して高くありません。長期的な有効性や安全性の点でまだ不明な点はありますが、わが国においても有効で安全なCOVID-19ワクチンが開発され、使用されることが望まれます。

3.今後に向けて

 ワクチンを接種しても一部の人は発症します。発症しなくても感染し無症状病原体保有者として人に広げる可能性も一部にはあります。またワクチンの効果がどのくらい続くかも不明です。COVID-19の蔓延状況が改善するまでは、マスク、身体的距離を適切に保つ、手洗い等の基本的な感染対策は維持しなければなりません。
 COVID-19ワクチンについては、予防接種法で妊婦を除いた国民に努力義務が課されています(妊婦は接種勧奨の対象)。個人の感染予防だけでなく、周りの人に感染を広げないためにも、多くの方に接種していただくことが望まれます。しかしながら、最終的に接種するかどうかは個人の判断に委ねられるべきであり、周囲から接種を強制されることがあってはなりません。
 また、健康上の理由で接種できない人や個人としての信条で接種を受けない人が、そのことによって何らかの差別を受けることがないよう配慮が必要です。COVID-19の終息に向けて、COVID-19ワクチンが正しく理解され、広く普及してゆくことを願っています。

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 次回は新型コロナウイルス感染症についてお話します。

12月号より