脳卒中について。その57 高次脳機能障害について

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 今回は前回に続き、脳卒中や頭部外傷などの後遺症として、記憶、思考力、注意力、判断力といった人間ならではの高度な脳の働きが低下する高次脳機能障害の治療についてお話しします。

 1.高次脳機能障害の治療

 高次脳機能障害の治療の基本は、その患者さんの症状に合わせたリハビリテーションを行うことです。高次脳機能障害は残念ながら、この薬を使用すれば劇的に治るというものではありません。脳には一部、脳卒中などで傷がついていますが、適切な方法で脳を働かせて、損傷を受けた脳の代わりになるような新たなネットワークを作ることで、回復に導きます。リハビリテーションは患者さんの状態に合わせて、慌てず、ゆっくり、患者さんのペースで行います。

 また、どのようなことを生活で目指しているのかによってもリハビリテーションは異なります。リハビリテーションは医師以外にも看護師、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、家族など多職種が協力、連携して行います。必要があれば、職場や学校などの周囲の人にも協力をお願いし、理解してもらうことが重要になります。

 一般的に、発症や受傷からの相対的な期間と目標によって、次に挙げる3つのプログラムがあります。

 【1】医学的リハビリプログラム

 病院や診療所などの医療機関で行うリハビリテーションです。定期的にカンファレンスを開いて目標や方針、状態を確認して情報共有します。多職種が連携してリハビリテーションを行います(図)。 240321me1.jpg

 【2】生活訓練プログラム

 患者さんが日常生活能力や社会活動能力を高めて、日常生活の安定と、より積極的な社会参加が可能になるようにすることを目的にします。本人の訓練と家族への働きかけも大事になります。

 【3】就労復帰支援プログラム

 職場や自宅で就労を希望する場合には、就労に必要な知識や能力を高めるトレーニングを行ったり、患者さんに合った職場探し、就労した後は職場定着できるような支援を行ったりします。

 これらの訓練は全体で、1年程度実施することが有効といわれています。もちろん、症状の軽重で期間も変わります。就労に必要な知識や能力を高めるトレーニング、職場探しや職場定着支援の継続の是非についてもカンファレンスを行って決定します。

 2.高次脳機能障害の福祉サービス

 脳卒中や事故で高次脳機能障害のある方が家庭や社会復帰に向けて利用できる福祉サービスは、原因や年齢により制度、サービスが異なります。

 【1】介護保険 障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス

 まず、脳卒中が原因で40歳以上の方であれば、介護保険の認定を受けて、サービスを決め利用します。40歳未満の方は、障害支援区分認定を受けて、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスが利用できます。

 脳卒中以外の病気やけがなどが原因で高次脳機能障害が残った方は、65歳以上であれば、介護保険制度を利用し、65歳未満の方は、障害支援区分認定を受けて、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスを利用します。少し分かりにくく、複雑なので、お住まいの市町村の障害福祉担当の方に相談するとよいでしょう。

 【2】障害者手帳

 さらに障害が強く、日常生活や社会生活に制約があると診断された場合には、「器質性精神障害」と認定されると精神障害者保健福祉手帳、手足や発声・言語について障害が残った場合には、身体障害者手帳が交付されます。精神症状と身体症状を併せ持つ場合には2種類以上の手帳を申請することもできます。

 また、18歳未満の方で知的障害が認定されれば、療育手帳が交付されます。これらの手帳は通常、発症から6カ月以降に診断されて、発行されます。これらの手帳を持つことで、各種税金や公共料金の控除、減免が受けられたり、障害者法的雇用率適用等のサービスも受けられたりします。

 3.家族支援

 高次脳機能障害のある方は、在宅で生活していることが多いので、日常生活の支援はほとんど家族が担っています。家族への支援としては、ホームヘルパー、家族への精神的ケア、相談面接、家族会やセミナーの案内、いろいろな制度や社会資源活用の案内、調整、デイサービス、短期入所の案内などがあります。家族の悩みを聞き、解決策を見つける努力をすることと、地域の方々に高次脳機能障害について理解を深めてもらうことも大切になります。
(参照:国立障害者リハビリテーションセンターホームページ)

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 次回は脳卒中の精神的な後遺症についてお話しします。