今回は、万が一脳卒中になったら「すぐに病院へ行く」ことについてお話しします。
1.脳卒中を疑う症状
脳卒中はさまざまな症状が出る場合がありますが、日本脳卒中協会では以下の5つの症状が出たら、脳卒中を疑うように提示されています。
1.左右どちらかの顔半分、あるいは左右どちらかの手足の力が入らない、しびれが出たとき。顔のみ、手足のみのこともあります。
2.言葉が出ない、ろれつが回らない、他人の言うことが理解できない。
3.力があるのに、ふらふらする、立てない、歩行できない、身体のバランスがとれない。
4.片方の目が見えない。物が二つに見える。視野の半分が欠ける、片方の目にカーテンがかかったように、突然一時的に見えなくなる。
5.これまで全く経験したことがないような激しい頭痛がした時。
これらの症状のうち、1つだけのこともあれば、2つ以上が重なることもあります。重症になれば、意識状態が悪くなることもあります。以上の症状が家族や周囲の人にもし見られたら、すぐに専門医を受診してください。
2.合言葉は「FAST」
前に述べた5つの症状をさらにより簡潔化させたものに「FAST(ファスト)」があります。F(face)A(arm)S(speech)T(time)つまり、(顔の麻痺、腕の麻痺、言葉の障害)が出たら、脳卒中を疑い、急いで行動しましょう、というものです(図)。アメリカ脳卒中協会では、脳卒中が疑われたら、顔、腕、言葉3つのテストを行うことを勧めており、脳卒中的中率は80%に及ぶといわれています。「顔、腕、言葉の異常は脳卒中」と覚えましょう。
3.脳卒中を疑ったらすぐに病院へ
これらの症状が出たら、どうして早く病院を受診しなければならないのでしょうか。もちろん、どんな病気でも早期診断、早期治療が原則です。脳卒中のなかでも一番頻度の多い脳梗塞では、発症してから、4、5時間以内の患者のみに行える特殊な治療(t-PA 静注療法)があります。これはt-PAという薬を使い、脳動脈に詰まった血栓を溶かして、血流を再灌流させる治療法です。
また、詰まっている脳の太い動脈にカテーテルを入れて、詰まっている血栓を対外に取り出す治療(血栓回収療法)も行えます。これらの治療は再開通療法と言い、厳密な治療適応基準はありますが、どちらの治療も早ければ早いほど有効性が高く、命を助けたり、後遺症を軽くしたりすることができる可能性があります。つまり脳梗塞が完成する前に、閉塞した血管を再開通させることで、脳組織の機能障害を改善させることができます。
時間が経ってしまった脳梗塞では、脳の血流を再開させても症状が改善しないことがあったり、むしろ症状が悪化してしまったりする可能性さえあります。可能な限り早期に治療することが重要です。
脳梗塞の場合、1分治療が遅くなると190万の細胞が失われるといわれています。「Time is brain」という言葉があります。脳梗塞の場合には時間との勝負であり、1分1秒でも早く治療を開始することが重要になります。
脳卒中はたいてい、前触れなく突然症状が出ますので、発症時間はまちまちです。夜、夜中でも脳卒中が疑われる症状が出た場合、あるいはいつもと様子が明らかに違う場合には、迷わず救急車を呼ぶことを勧めます。時には脳卒中でなくても似た症状が出ることはありますが、病院を受診せずに、脳梗塞が完成してしまってからでは症状は良くならずに、後遺症を残す可能性があります。手遅れになってしまうよりは、早めの受診を勧めます。
もちろん脳梗塞に限らず、脳出血でもくも膜下出血でも早期診断、治療が重要です。脳出血やくも膜下出血になった際には血圧が上昇していることが多く、放置すれば、さらに出血が拡大して、生命の危機や重大な後遺症を残すことになりかねません。すぐに診断して、降圧療法を開始しなければなりません。
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今回で脳卒中を予防するための十か条については終了し、次回からは脳卒中の後遺症などについてお話をします。