喜多方市山都町字舘ノ原で、窓の隙間から手を入れたクマにカーテンを引き裂かれた民家の男性が16日、福島民友新聞社の取材に応じ、その時の恐怖を語った。13日には南会津町田部の高齢者介護施設で、クマがガラスを突き破り施設内に侵入する事案も発生した。専門家は「クマが人がいる環境に慣れてしまっている」と指摘。今後もクマが人里に近づくケースがあり得るとしており、注意が必要だ。
「もう、トラウマだね」。喜多方市山都町字舘ノ原の住宅地に出没した1頭のクマ。対峙(たいじ)した男性(35)は突如訪れた恐怖の瞬間を振り返った。
14日午後9時半前。就寝しようとした時だった。「キャンキャンキャン」。外につないでいた飼い犬の叫び声が聞こえた。窓を開けると、クマが目の前で犬を襲っていた。男性が大声で叫ぶとクマがこちらに飛びかかってきた。急いで窓を閉めようとしたがクマの片手が窓の隙間に入り、無理やりこじ開けようとしてくる。男性が両手で窓を閉めようとするもびくともしない。
クマの力が緩んだ隙に窓を閉めたが、「カーテンがなければ自分が死んでいたかもしれない」。はがれた網戸にはクマの爪痕がくっきりと残り、カーテンは大きく引き裂かれた。窓枠もゆがむほどの力だった。「腕力には自信がある方だった」というが「クマの力は想像以上。力でかなうわけがない」と語った。
5日には付近の河川敷で除草作業をしていた男性2人がクマに襲われた。男性は「人に慣れていて、クマ鈴では通用しないと思う。暗くなったら外出しないことを徹底したい」と話した。
南会津町田部の高齢者介護施設は、施設裏手に電気柵が設けられていたのにも関わらず、侵入された。施設は電気柵の設置場所を広げる考えで、施設関係者は「生き物相手なので分からないが、対策に効果があってほしい」と話す。
県内目撃742件、過去最多更新
今年県警に寄せられたクマの目撃情報は、15日時点で742件(前年同期比167件増)となり、昨年1年間の632件を既に上回り、過去10年で最多となっている。16日も各地で目撃情報が相次いだ。過去10年では、年間で700件を超えたことはなく、今年の目撃情報の多さは際立っている。また、県内で今年発生したクマによる人身被害は、5件7人となっている。
県警地域企画課によると、過去10年で目撃情報が最多だったのは、23年の687件、最少は2015年の186件だった。
識者「人里に慣れてしまった」
クマの生態に詳しい福島大の望月翔太准教授(41)は「ここ10年くらいで人里の近くで暮らすクマが増加している。人里近くで生まれたクマもいて、人がいる環境に慣れてしまっている」と指摘する。ガラスを破って屋内に入ってくるケースが相次いだ一因については「相当近くにクマがすみ着いている」と分析する。
また望月准教授によると、今年は東北地方の各県で好物のブナの実が凶作となる見通しで、山を下りるクマが増える可能性が高いという。対策として、家の周囲に餌になるような物を放置しないほか、戸締まりの徹底が必要だとした。