自民党総裁の石破茂首相が辞任を表明したことに伴う総裁選がきのう告示された。いずれも昨年の総裁選に出馬した、小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農相の5人が立候補を届け出た。国会議員295票と、同数の党員・党友による地方票で、新総裁を決める。10月4日に投開票が行われる。
各候補の政策や目指す国家観ではなく、勝ち馬を見極める動きや有力議員による駆け引きばかりが目立てば、国民は支持を失った旧来の体質の継続と受け止めるだろう。問われているのは、党がキャッチコピーで「変われ自民党」としている通り、どう生まれ変わろうとしているかだ。国会議員や党員はそれを肝に銘じてほしい。
論戦の焦点となるのは、自民、公明の連立政権が衆参両院で過半数割れしたなかでの新しい政権の枠組みだ。自公政権は石破氏の首相就任以降、苦しい政権運営が続いている。政権が不安定な状態が続けば、参院選で争点となった給付や減税のように目先の議論に終始し、長期的な視野に立った財政改革や持続可能な社会保障の構築が後回しになりかねない。
各候補は首班指名やその後の政権運営を視野に、野党との連携の必要性に言及している。共同通信の世論調査では、最も望ましい新政権の形として、「政界再編による新たな枠組み」と「自公政権に一部の野党が加わった政権」が合わせて7割となっている。
各候補は物価高に対応した給付や定率減税、年収増、地方が自由に使える交付金の創設などを掲げるものの、野党側との連携が図りやすい、有権者や地方の経済負担を軽減する政策の訴えが中心となっているのは否めない。こうした姿勢では、仮に政権を得ても、野党の要求に応じて政策の修正を繰り返したこの1年と同様のことが続くのではないか。
5人には政権の枠組みや野党との連携についての訴えに終始することなく、党として目指す日本の今後の姿についても議論を深めてもらいたい。
議席や党員の減少といった自民退潮の大きな要因となっているのは、政治とカネの問題にけじめをつけられなかったことに尽きる。しかし、きのうの立会演説会でこの問題に直接触れた候補はいなかった。この問題に正面から向き合わない限り、有権者の信頼を得ることはできまい。5人は、政治とカネの問題が繰り返される体質からの脱却策についても忌避することなく語るべきだ。