福島市北部の「福商通り」沿いに「生きた味 つつみ」という文字が見える建物がある。今年創業45周年を迎え、家族で営む食堂だ。「自分だけじゃここまでやって来られなかった」。店主の後藤春夫さん(74)がしみじみと話す言葉には、ともに困難を乗り越えてきた家族や店の味を愛し続けてくれる地元客への感謝の思いがにじむ。
「いらっしゃいませ」。テーブル掛けで30席ほどの店内に、妻弘子さん(73)の声が響く。厨房(ちゅうぼう)では、春夫さんと長男明彦さん(50)が腕を振るう。
店の看板メニューはうどんだ。こしの強さが受け入れられ、創業以来の一番人気になっている。大きな丼の縁までルーで満たすカレーうどんやミニ丼が付いたセットメニューなど、盛りの良さも特徴の一つ。とんかつやハンバーグなど7種類の中からおかずを選べる「つつみ定食」も好評だ。
作り置きはせず
店名に「生きた味」を掲げる通り、作り置きはせず、注文を受けてから野菜の皮をむき、食材を切る。材料にもこだわり、ネギやサトイモなど、季節ごとの食材の一部は春夫さんが自ら畑で育てる。「本物の食事を提供したい」という信念が、店の味を支えている。
春夫さんが料理人としてのスタートを切ったのは15歳の時。幼なじみから誘われ、中学校卒業後に同市土湯温泉町の鷲倉温泉で働き始めた。その後、市内の和食店やラーメン店で修業を積み、料理の幅を広げた。
料理人になって10年以上がたったころ、弘子さんの父高野徳治(とくじ)さんから「自分の店を持ってみてはどうか」と勧められた。高野さんのつてで物件を紹介してもらい、28歳で念願の食堂をオープン。地元の人たちに愛される店にしたいと願い、店名は地名の「鼓原」から取り、子どもも読めるようにと平仮名にした。
「開店したては、お客さんが来てくれるのか心配だった」と弘子さん。程なく店は軌道に乗り、出前も始めるなど、忙しい日々が続いた。「みんなに救ってもらって、やって来られたよ」と目を細める。
危機に長男奮起
だが、今から10年ほど前、店を切り盛りしていた春夫さんが心臓の病気で倒れた。弘子さんや従業員の助けで何とか営業を続けたが、大黒柱を失った厨房は一変。片付けが追い付かず、洗っていない食器が散乱しているような状況が続いた。
店の危機に奮起したのが、明彦さんだった。仙台市の専門学校を卒業後、県内のホテルや旅館で調理師として働いていたが「来てくれるお客さんがいる。なんとかしたい」と思い、店を手伝う決意をした。
「息子さんが手伝ってくれるから、また店で料理を食べられる」。常連客がかけてくれる言葉も、一家の力になった。今は明彦さんが大黒柱として、厨房の大半を任されている。「手間をかけたご飯を食べてもらいたい」と明彦さん。「生きた味」を提供し続けてきた父の思いと味を引き継ぐことを誓う。「一日でも店を長く続けていきたい」。家族3人は声を合わせた。
■住所 福島市南矢野目鼓原17の1
■電話 024・553・7224
■営業時間 午前11時~午後2時半、午後5時~同9時半
■定休日 水曜日、第3木曜日
■主なメニュー
▽つつみ定食=1500円
▽天丼セット=1000円
▽ソースかつ丼セット=1000円
▽カレー南蛮うどん=980円
店内を飾るリース
店内に飾られた縦横1メートルほどの大きなドライフラワーリースは、弘子さんの手作り。店の雰囲気に合うように、バラやユーカリなどを組み合わせて作った。
今までは1年ごとに装飾を変えていたが「このままでいい」と常連客が気に入り、2年間飾り続けている。