戻りたい意欲上向き 福島復興へ新局面、復興拠点避難解除が完了

 

 東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち、富岡町に残っていた特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が30日に解除される。6町村に設定された復興拠点の避難解除が全て完了し、本県の復興は新たな局面に入る。拠点内の帰還率は厳しい数字が続く一方、古里の展望が具体化するにつれ帰還意欲が上向いている実態も見えてきた。今後は希望をかなえるための環境整備に加え、復興拠点外に設ける「特定帰還居住区域」と両区域外の取り扱いに焦点が移る。(報道部・斉藤隼人)

■予想を下回る

 復興拠点は帰還困難区域のうち、早期の居住再開を図る地域。2017~18年に6町村に順次設けられ、居住地を含む範囲は22年6月から今年5月にかけて全て避難解除された。30日には富岡町の道路など、居住を前提としない場所が避難解除される。

 福島民友新聞社のまとめでは、復興拠点の居住者数は【表】の通り。富岡、大熊、双葉、浪江の4町の居住者は計318人。葛尾、飯舘両村は人数がごく少なく、特定の恐れがあるため非公表とした。

 6町村は復興拠点を国に申請する際、期待値として避難解除5年後の居住人口目標をそれぞれ定めた。目標に対する進捗(しんちょく)度は約4%。まだ先の目標とはいえ、自治体関係者は「予想より少ない」とこぼす。
 年月による帰還意欲低下の表れとも映るが、復興庁などが調べている避難地域(解除済み含む)の住民意向を分析すると、復興拠点が認定された17年度以降、毎年実施している富岡、双葉、浪江は3町とも「戻りたい」「戻っている」と回答した割合が増えていた。避難解除が現実となり、住環境が少しずつでも整う中、心境が変化したとみられる。

■帰還進む材料

 県避難地域復興課は「病院や仕事などの条件が合わずに帰還をためらっている人は相当数いる」と推測。「福島国際研究教育機構(エフレイ)の設置効果などで住環境や雇用が充実すれば、帰還が進む材料になり得る。復興拠点の再生は今が正念場だ」とし、政策の重要性を強調した。

■居住区域焦点

 309平方キロ残る帰還困難区域の焦点は、新設される「帰還居住区域」へと移る。従来と違い、帰還希望者の生活範囲が除染・避難解除の対象となる。対象の住民への1回目の意向調査は富岡、大熊、双葉、浪江の4町で終わり、年度内に計画を完成させる見通しになっている。

 各町村は帰還希望者一人一人の生活圏を図面に落とし込む作業を進めるが、調整は容易ではない。生活圏の定義が「住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地などを含む範囲」と抽象的なためだ。山林や営農再開が見通せない農地などは原則含まないとされ、除染などの費用を負担する国との綱引きが続く。

 さらに、復興拠点と帰還居住区域からも外れる「白地」の地区は取り扱い方針が未定のままだ。早期検討を求める地元側に対し、国は「先の議論をするより、今は帰還希望をいかに早くかなえるかが重要」(復興庁幹部)と隔たりもある。帰還政策の課題は12年8カ月を経て複雑・多様化し、各地域の実情を踏まえた対応が重みを増している。